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『糸の切れたマリオネット』
お砂糖と卵焼き。

意識がふわふわと現実と夢とをさ迷っている。この不思議な感覚がけっこう好きだ。
起きるか起きないかで悩み、布団の心地よさにまた眠りに誘われそうになった時――微かに甘い匂いが鼻先を掠めた。


(おいしそう……)


香ばしいけどほんのり甘い、優しく包み込まれるような安堵感。ぼんやりと母の姿が浮かんだ。


(あ…卵焼きだ)


嗅覚と記憶が結び付き、好物である卵焼きの像が思い浮かぶ。

朝ごはんに卵焼き。なんと幸せな朝だろう。
素朴な幸福感に思わず顔が綻びそうになった。が、












「は!?」



衝撃的事実に一気に目が醒めた。
俺は一人暮らしなのに、卵焼きの匂いがするなんておかしい。

ガバッとベッドから跳ね起きると、キッチンで作業をしていた男と目が合う。
隣に寝ていたはずなのに、その布団はもうきちんと畳まれている。


「おはよう。よく眠れた?」

俺の挙動に驚いたようだったが、すぐにイオは優しく微笑んだ。

「あ……。おはよう、…イオ」

そうだった。昨夜イオと出会って、暫く匿うことになったんだっけ。
寝起きの頭で懸命に昨夜のやり取りを思い出す。

「朝ご飯もう少しでできるから、顔でも洗ってきて」

「う、うん」

なんだろうか、この王道のテンプレートは。





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