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『糸の切れたマリオネット』






「………………………」



…誰だこいつ。


振り向いた先に見たものに、俺は硬直した。
そこには、手持ち無沙汰に突っ立っている王子様がいた。そう、王子様。俺の表現は間違っていない。

まるで絵本から抜け出たような眉目秀麗の美男子。髪はプラチナのようなブロンドで、瞳の色は澄んだアイスブルー。細すぎず、程よく筋肉のついた均整のとれた体躯。ほら、日本人が思い描きがちな典型的な王子様だ。
外では暗くてよく見えなかったが、こんな顔をしていたのか。

人間離れした芸術作品のような男を、俺は思わず凝視してしまった。すると、男は不思議そうに小首を傾げる。
そんな様も一々絵になるなあと感心しつつ、とりあえず処置をすべく男に座るよう促した。

「えっと…、傷口見るから、手、出して」

俺がそう自分の手を差し出すと、男は少し戸惑ったような素振りを見せる。

「……いい。もう治った」

男は負傷した手を隠すように背後へ引っ込めた。
治ったって…あんなに血が出ていたのに、5分やちょっとで治るはずがない。

「そんなわけないだろ。あんなに出血して…化膿でもしたらどうするんだよ」

例え浅くても、動物が引っ掻いたんだ。傷口から有害な菌が入る可能性だってある。野良猫ならなおのこと。

どうにかして掴もうとするが、頑なに拒んで男はそれを良しとしない。そんなに嫌がらなくても…、そう思ったところではっとする。

「あ…。……ごめん、俺…、無理矢理連れて来ちゃったけど…そうだよな、迷惑…だったよな」






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