『糸の切れたマリオネット』
猫と君。
深夜11時の住宅街。
人気もなく、街灯も少ない寂しい道を一人歩いていると、物をひっくり返したようなけたたましい音が響き渡った。と同時に動物の甲高い鳴き声。
突然のことに跳ねた俺の心臓は、物音がしなくなった今でもバクバクと苦しいくらい鼓動している。
いくらもういい歳の男でも、こんな時間に人気のない道で大きな物音がしたらさすがにビビる。超ビビる。
音の元は後方。大きさからいっておそらくそこまで離れてはいないだろう。
何事かと身構えていたが、いくら待っても第二波は来なかった。さも何もなかったかのように辺りは静まり返っている。
「……?」
不思議に思ったが気にしないことにして、立ち止まっていた足を再び動かした。
こんなところ早く離れて、早く自室に戻って休みたい。今日はフルタイムのバイトをこなして体はかなり疲弊していた。なんだか薄気味悪いしさっさとこんなところオサラバだ。
安息を求めて歩調を幾分速めたその時、背後から自分とは違う足音が聞こえた。それは微かに、しかししっかりとした存在感をもって己の足音に混ざっている。
つい先程まで、この道を歩いている者は自分以外にいなかったはずだ。
住宅街ということもあり他に人がいたとしてもおかしくはないのだが、この暗闇が不安感を増長させる。
いやに静かな路地に、二つの足音がこだまする。
緊張からか冷や汗が流れた。
数分間その状態を続けていると、気が付けば自宅ももうほど近くになっていた。
相手は特に何かを仕掛けるでもなく微妙な距離を保っていた。だが俺はその妙な緊張に耐え切れなくなり、走り出した。
……走り出そうとした。
しかしその瞬間、後方で聞こえた動物のフギャアという鳴き声と、男のちょっと情けない驚く声を耳にし、走り出すタイミングを逃してしまった。
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