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小説
三年目の春
真理(まり)が政宗の城で女中として働くようになってから、三年目の春を迎えた。
覚えることがたくさんあって、よく初めの頃は熱を出して寝込んだ。
「知恵熱じゃないの?」
真理より先に入った、女中のみねは年が近く、真理と気が合うのか真理の額に濡らした手ぬぐいを乗せて笑った。
「そうかもしれないです〜」
へへ、と真理は否定をしない。

真理には姉と兄がいて、兄のところにはそこそこ裕福な城の姫が嫁いできたのだが折り合いが悪く、兄嫁と顔を合わせれば喧嘩ばかりしていた。
姉も割と有名な武家の男のもとに嫁ぎ、両親はそれを誇りに思っている。
ある日、真理は兄嫁と派手な喧嘩をしてこの城に転がり込んだ。

真理は少しだけ物事を覚えるのが遅いが、覚えたことは決して忘れない。
多少おっちょこちょいなところはあるものの、女中という女の園でも媚びたりへつらったりすることはなく、同じく群れることは嫌いなみねと一緒にいることが多かった。
「真理ちゃん、みねちゃん、二人なら政宗様と小十郎様どちらが好み?」
毎日繰り返されるこの会話。
政宗と小十郎が女中たちの詰め所を通りがかった時に何度か会話を聞いたことがある。
みねと真理はそういった質問には答えず、ひたすら山の生き物や草花の会話などまるで関係ない話題で盛り上がっていた。

政宗の家臣たちがやはり
「お前ならみねと真理、どっちがいい?」
という会話をしていたのも聞いたことがある。
「やれやれ、恋だの愛だの、前田の風来坊と同じ事言ってんなァ、小十郎」
「全くでございますな」

みねは白い肌に黒々とした艶のある長い髪を一つにまとめ、凛とした美しさを携えている。
真理はどちらかと言えば可愛らしい顔立ちで、ぱっちりとした目にはびっしりと長いまつげが隙間無く生えている。
よく食べ、よく泣き、よく笑う。
女は感情を表に出すなと度々別の女中からたしなめられたが、真理にとってはどこ吹く風。
「女がじっと耐えるだけなんてもうこりごりだぁ。実家でさんざん耐えてきたんだから許して欲しいものですなぁ」

ある日、真理は政宗に呼ばれた。
「お呼びでございましょうか、政宗様」
入れ、という主の声に真理は部屋に入り頭を下げる。
「政宗様、いかがなされましたか?」
「Hey真理、実は頼みがあるんだ。聞いてくれるか」
「私にできることでしたら」
真理の言葉に政宗は安心したように言った。
「実はよ、小十郎の畑を手伝ってくんねぇかな。最近戦の動きがねえって安心したのか、小十郎の奴考えなしに畑広げちまってよ。今はこんな状態だけどまたいつ何時戦があるかわかりゃしねぇ。他の女中は話になんねぇ。小十郎と目を合わせればみんな卒倒しちまうからよ、真理なら小十郎も安心するだろ」
真理の眉間にみるみるしわが寄る。
「…私だって…片倉様と目が合えば卒倒するかもしれません、よ…?」
「Ahh?真理お前、小十郎のこと…」
そうじゃなくて、と真理は手を振る。
「片倉様が…怖いんですよ…。目が…目力が強すぎて…」
「あぁ、目つきが悪いのは否定しねぇや」
「ちょっと!…あ…失礼しました…」
政宗や小十郎の前では少しでも自分を良く見せようと、いきなり淑やかに振る舞ったり、色目を使ったり仕事そっちのけで化粧をする女中が多い中、感情を素直に出す真理やみねを政宗は良く思っていた。
「Hey真理、小十郎はオレが背中を預けて信頼するただ一人の男だ。オレは真理も信頼している。大丈夫、小十郎はお前を取って食いやしねぇよ。もう小十郎には一応話をしてあるから、今から支度してこい。あっ、昼飯の用意をしてくれるとありがてえなぁ」
「…今から腹が痛くなる予定なんですけど、だめですか」
あまりにも慌てすぎて訳の分からないことを言い出した真理に政宗はたまらず大笑いをする。
「お前、本当に面白い奴だな!お前といれば小十郎の眉間のしわも少しはマシになるだろ」
真理はしぶしぶ小十郎と自分の分のおにぎりを作り、丁寧に竹の皮でつつむと、畑作業がしやすい服装に着替えて外に出た。
外に出ると、すでに政宗が待っていてくれた。
「さあ真理、行くぞ」
「はい…」
政宗の後ろを歩きながら、どうか取って食われませんようにと真理は太陽に向かって手を合わせた。



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