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小説
城下町での任務
数日後、佐助は任務の為とある城下町にいた。
豊臣の軍がなにやら水面下で動いているらしい。
さすがに忍装束では目立ちすぎるので着流しこそきているものの、武器はしっかりと見えない部分に隠し持っている。

「ちょいとお兄さん、アタシと遊んでかない?」
どうやらここらへんで体を売っているらしい年増の女が怠そうに赤い紅の唇を舐めながら佐助の方にやってくる。
「はぁん…いい男だねぇ、美味しそう」
蛇のように舌なめずりをしながら佐助の顔を覗きこむ。
「最近はみんな若い子ばっかり選んで…アタシは年寄りばっかり相手しててねェ、たまには若い男に泣かされたいんだよ」
しなだれかかる、男の精をたっぷり吸って臭いが取れなくなってしまった女の体をすいっとかわし、佐助はうんざりしながら言った。
「悪いけどさ、あんたすごい下品なんだよね。だから年寄りしか相手にされないんだよ。じゃあね」
女が何か怒鳴っていたが、佐助は構わずに歩き出した。
「女なら誰でもいいとは限らないっつーの」
言いながら歩いていると、すぐまた別のところから声をかけられる。
「兄さん!遊んでかねぇかい!若い娘、可愛い娘、綺麗な娘選び放題だよ!今なら安くしとくから!」
ガラの悪そうな、いかにも真っ当な職には就いたことのなさそうな目つきの悪い大柄の男が指をさすと、牢屋みたいな場所に詰め込まれた女たちが黄色い声を上げて佐助に手を伸ばす。
(真っ当な職じゃないってのは俺様も同じなんだけどねェ)

「悪いけどさ、俺様…」
言いかけて佐助はひょいと奥を覗くと、見たことのある姿を目にした。
艶のある髪を団子状にくるりと結い上げ、猫のような目。
左目の泣き黒子に、桃色の唇。
…吹雪だ。
「ふぶ…」
佐助が吹雪の名を呼ぼうとした時、吹雪は走って佐助の口を手で塞ぎ、男に気づかれないようにしーっと自分の唇に指を当て、佐助を引きずって外に連れて行く。
ようやく吹雪の手が離れた佐助は、ぷはっと小さく息を吐いて周りに聞こえないように小さく話し出す。
「吹雪…ちょっとあんたこんなとこで何してんの?」
「任務なんだってば!どうやら豊臣軍が怪しい動きをしてるっていうからあちこち聞いたらこの店によく豊臣の関係者が来てるみたいなんだ。だから…」
「吹雪も色仕掛けで情報を?」
「私はそんなことしない!…絶対しない!」
声を荒げた吹雪の口を今度は佐助が手で塞ぐ。
「あー。悪かった。ごめん」
「私は…お客さんにお茶を運ぶだけ…だよ…」
藍の浴衣に前掛け姿の吹雪。
ここで働く規則なのか、浴衣の衿をかなり抜いた着こなしに佐助の喉が軽く鳴る。
「俺様もさ、豊臣がなんかやばい動きしてるから調べてこいって言われてねぇ。人使いが荒くて困るのよ」
「…目的は一緒みたいだね」
横を向いて髪を直す吹雪の白いうなじが目に入ると、佐助は閃いたように袖の財布を探る。
「これだけあれば…なんとかなるかな…。しばらく何にも買えないけど仕方ない…」
意を決したように佐助は吹雪の腕を掴んで店に戻る。
「ちょっ…いきなりどうしたの?」
「いいから!同じ目的の任務ならこの際…」
佐助は男の前に立つと吹雪の手を握って言った。
「なぁ、俺様この娘気に入った!この娘がいい!」
「ええっ!?…何言ってるの!?私はここでお茶を運んで…」
吹雪に何も言わせないように佐助は男に向かって言った。
「気に入った娘ならいいんでしょ?選び放題って言ったのはそっちだよ。俺様に選ぶ権利あるでしょ?」
(あの中でも吹雪はとっても可愛いからなぁ、べらぼうな値段ふっかけられたらどうしよ…)
男はしばらく佐助と吹雪を交互に見ていたがニヤリと不適な笑みを浮かべて言った。
「二階の真ん中の部屋使っていいぜ。あ、こいつは…金いらねぇや。元々茶を運ぶだけの役割だからなぁ。たっぷり可愛がってやってくれよ」
男の挑発的な言葉に負けじと佐助も挑発的な言葉で返す。
「そこら辺の男よりも大事に扱うっつーの。じゃあ、部屋借りるよ。二階の真ん中の部屋ね」

佐助の後をついて行こうとする吹雪の肩を男が掴んだ。
「おい。茶を運ぶだけの役割でもお前はここの店で働いてんだぞ、しっかりと奉仕して満足させろよ?」
「…はい」
佐助はしっかりとその会話を背中で聞いていた。
そして階段を上がって指定された部屋の襖を開ける。
ある程度金を持った者が来るのか、それなりに綺麗な部屋で布団も新しい。
男と女の匂いと、それを消そうと焚かれた香の匂いが少し鼻にまとわりつく。
若干調度品の趣味も毒々しいが、それさえ我慢すればなかなか快適だ。
男が金はいらないと言わなかったら危うく吹雪に借金をするところだったと佐助は一瞬思ったが、…金で吹雪を買うなんて…敵を殺めるよりも罪深いことのような気がした。

吹雪は吹雪で部屋の隅に正座したものの、どうしていいかわからない。
任務とはいえ、この部屋には佐助と二人だけ。
もちろん自分もいつもとは違う格好なのだが、佐助の深い緑色の着流し姿をまともに見ていられない。
けれど、豊臣の情報をつかむという任務のためなら…!
吹雪はおもむろに立ち上がって布団の上でぐるりと部屋を見渡して安い金の鍍金が貼られた置物を見ている佐助に近づく。
(いちかばちか…!)
「猿飛様…」
うん?と振り向いた佐助はとん、と吹雪に肩を押されて布団の上に仰向けに倒れ、その上に吹雪が覆い被さる。
「吹雪…?」
「お願いがあるんだ…。猿飛様を傷つけるようなことはしない…。私は…奉仕する演技をするから…猿飛様も…演技してほしいんだ…。一応…声とか出してもらっていいかな…。だって…ここは元々男女の…その…。押し黙って情報ばかり収集してたらかえって怪しまれちゃうから…」
しどろもどろになって首筋まで赤くなった吹雪の頬にそっと手を添える。
「そうだな…吹雪の言ってることは確かだ。演技っつーのが切ないけどしゃーないね」
佐助の、少しがっかりしたような、それでも納得した言葉に安心した吹雪は浴衣の袷を少しだけはだけさせ、再びゆっくりと佐助に覆い被さった。


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