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小説
想い
「ぼくは…もっと強くなりたい…」
竹刀をギュッと握った拳に、うつむいたままの凪の涙がぽとりと落ちた。

「Hey凪、お前は今でも充分強いと思うぜ」
政宗がしゃがみこんで凪の頭を優しく撫でる。
「僕は…剣でしか元親様をお守りできない…から…っ!」
泣きじゃくる凪に片倉もしゃがんで凪の肩に手を添える。
「凪…どうしてお前はそこまで強くなりたい?…長曾我部に拾ってもらった恩だけではなさそうだが…」
しばらく唇を噛んで肩を震わせていた凪は顔をあげ、政宗と片倉に話し始める。
凪から紡がれる、あまりにも切なくて苦しい言葉。
涙を流し続けたまま、凪は胸の内を二人に吐露した。
もちろん、船守姫のことも。
政宗は最初はからかってやろうとしたが、あまりの凪の切なそうな声に何も言えなくなる。
片倉は黙って凪の肩をさすりながら話を聞いていた。

「凪…それなら剣じゃなくてもお前にしかできないことがあんじゃねぇのか?飯を作ったり、長曾我部のそばにいたり…長曾我部の心のCareになってやればいいんじゃねぇのか…?」
政宗の言葉に凪が声を震わせる。
「そばにいることが…元親様を守ることに…?」
でも、と凪は首を振った。
「船守姫がもし…どこかの城のお姫様だとしたら…。そうなったら僕は元親様のそばにいれるのは剣で戦うしかなくなる…」
片倉は言い辛そうに凪に問いかけた。
「凪は…その船守姫とやらを恐れているのだな…?」
ハッと顔を上げた凪は一瞬体の全機能が停止したかのように動かなくなる。
そうだ…、そうだ。
船守姫が…元親と一生を添い遂げるならそれでも構わないと初めは思った。
しかし、もし姫と元親が毎日幸せそうにしている姿を見ることになるかもしれない。
それは凪には辛すぎることだった。
元親のためなら船守姫は見つかって欲しい。
けれど、凪は…心どこかで見つからなければいいと思っていた。
それまでは、元親を守ることができるから。
もちろん元親だって誰かに守られるほど弱くはないのは承知の上だ。
だから船の長として仲間を束ねている訳で。
身勝手だとは思っている。
もう少し元親と一緒にいたい、もう少しだけ…。
元親に認めてもらえるまでは…。
そんな思いが膨らんで、凪の中をいっぱいにしていたのだ。

「片倉様の政宗様への忠義と…僕の元親様への忠義は違いすぎます…。僕の忠義はわがまま以外のなんでもないんです…。こんなのを忠義という言葉でごまかして…。変ですよね、僕は…」
ぐしぐしと乱暴に涙を拭って無理やり笑顔を作る凪が痛々しい。
「凪、お前のPureなHeartに気づかないなんてよ、Crazyだぜ長曾我部…」
「ごめんなさい、こんな話をしちゃって…」
凪は政宗と片倉に笑いかける。
「凪、お前が考えてることはちっとも変じゃないから安心しろ」
片倉の言葉に凪は目を伏せた。
「元親様が僕を可愛がってくれるのが本当に嬉しくて。けれどこのままでは元親様が男色だと思われてしまいますから…。なんだか言ってること矛盾してますよね…。元親様のことになると余裕なくなって…。本当にすみません、こんなつまんない話をしてしまって。…そろそろお暇しないと元親様が心配してしまいますから…。稽古つけてくださって本当にありがとうございます」
稽古の後に泣き疲れた体をのろりと立ち上がらせて、凪は深く二人に頭を下げる。

結局政宗と片倉の馬を出してもらい、野菜を固定すると凪は政宗の馬に乗せてもらった。
港に着くと、元親が凪の帰りを待っていた。
「凪ィ!!心配したじゃねぇか!!城で食われたかと思ったぞ!」
凪の姿を見たとたん近づいた元親だったが、凪の背後から現れた双竜に足が止まる。
「Ahh!?聞き捨てならねえなぁ西海の鬼が!!」
元親と政宗は一瞬睨み合ったが
「でも…いつもすまねぇな、野菜を分けてくれてよ」
「Ha!こっちこそ美味い魚をThank youな」
元親が野郎共!!と声を上げると仲間たちが一斉に動き出して手分けして野菜を運び始める。もちろん凪も。
「Hey,長曾我部…」
「あんだよ」
凪の姿が見えなくなったところで政宗は元親に一歩近づく。
「お前がCrazyなままなら…いつか俺が凪をさらっちまうかもしれねぇな…」
「ああ!?」
どういう意味だ、と元親が詰め寄ろうとすると片倉が政宗様、と制する。
「政宗…お前が男色だとは知らなかったぜ」
元親の皮肉に政宗はフンと鼻を鳴らした。
「お前は男色じゃないんだろ?それなら関係ねえじゃねえか、長曾我部。凪みてぇな中性的な男、俺は欲しかったんだぜ」
「なんだと…?」
「アニキー!!ちょっと来てくれませんかー!!」
割って入ってきた仲間の声に顔をしかめながらも船に戻っていった元親と入れ違いに凪がやってくる。
「政宗様、片倉様、今日は本当にありがとうございました。また近くに寄った時にはご挨拶に伺いますね」
ぺこりと頭を下げた凪に政宗は手招きをすると懐から何かを取り出して凪に渡す。
「これを凪にやるよ。俺からのPresentだ」
「これは…?」
蓋のついた白い小さな陶器の入れ物には青い花が彫ってある。
「蜜蝋を固めたものに花から取った香料が少し入ってるんだ。少しだけ指に取ってLipに塗るんだぜ」
政宗は自分の薬指でこうやるんだという仕草で凪に蜜蝋の使い方を教えてやる。
「潮風からも守ってくれるし…乾いたLipじゃ甘いKissも台無しだぜ、You See?」
「…あい…しい(I See)」
政宗と片倉と握手をしてまた会おうという約束をしていると、元親の声がした。
「凪、そろそろ船出すぞ!」
「はい!…それじゃあ政宗様、片倉様…また…」
手を振ろうとした凪の腕を政宗が掴んで強く引っ張ると、凪がつんのめって政宗の胸に飛び込むかたちになる。
政宗は凪を腕に閉じ込めて強く抱き締めると、チュッと音を立てて凪の右頬に唇を落とした。
「おいてめぇ!凪になにしてんだ!」
逆立った髪をなおも逆立てながら元親が凪と政宗を引き剥がした。
「Ha!異国じゃこれが挨拶だ覚えとけ長曾我部!」
元親は真っ赤になってあうあうと口を動かしている凪を抱き締めると
「野郎共!船を出せ!」
と声を荒げた。

ゆっくりと進む船。凪は元親の腕からするりと離れると次第に小さくなっていく政宗と片倉に手を振った。
「政宗様、片倉様…!ありがとうございました!」
「Kitty、またな!」
「また…美味い野菜を作って待っている…」
二人の姿が見えなくなるまで凪は手を振り続けた。


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