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小説
風来坊と鬼
「いつ見てもすげぇなぁ、なあひより」
「なんだか異国にきた気がします」
慶次とひよりは四国にいた。
元親の戦術や兵器を戦ではなく、日ノ本の平和に役立ててはどうかと提案しに来たのだ。
巨大な要塞のような船を目の前に慶次とひよりは改めてその凄さを感じていた。

慶次は傾奇者らしくいつもの派手な格好だ。
頭には大ぶりの羽根飾り。
ひよりも、肩までの髪を左に流して結い紐で束ね、まつから作ってもらった動きやすい装束に、手には薙刀。
顔立ちのせいか、少年のように見える。
「西海の鬼とはいえ石頭じゃないはずさ。きっとわかってくれる」
「はい」
歩き出した慶次の後ろをひよりは歩き始めた。
「前田慶次、罷り通る!」

「なんだぁ?前田の風来坊じゃねぇか。あんたの相手をしてるほど俺は暇じゃねえんだよ」
元親のもとに部下が走ってやってくる。
「アニキ!前田慶次なる者がアニキに会わせろと…。どういたしましょう」
「命知らずが…。まぁこの鬼に会いに来たことだけはほめてやらんこともねぇな。凪!いるか!?」
「はい」
藤色の着物に紺の袴姿の凪は会話を聞いていたらしく、長刀を傍らに元親の部屋の前にひざまずいていた。
「行くぞ、凪。風来坊はどんな芸で鬼を楽しませてくれんだ?俺と凪だけで行く。野郎共は手出しすんじゃねぇぞ」

「前田慶次、罷り通る!長曾我部元親!あんたに会いに来た!」
「鬼の島に土足で上がるたぁいい根性だなぁ、風来坊!」
船の上で大柄な男二人が対峙する。
片方は超刀、片方は碇槍。
元親の鎖がじゃり、と音を立てる。
「へへ…。いい兵器もってんじゃん。なぁ、そんないい兵器を戦のためだけに使うの、勿体ないんじゃない?その技術があればさ、もっと日ノ本を平和にしようってならない?」
「相変わらず平和呆けしてんなぁ。ぬるくて欠伸が出るぜ。…俺が出る幕もねぇかな。凪!」
「はっ!」
後ろからすっと凪が長刀に手をかけ、元親の左側に立つ。
「あらら、かわいい子鬼連れてんじゃん。長刀なんて持っちゃってさ」
「ハッ!文句あんのかよ!鬼頭が子分連れてるくらいでよ!」
ふうん、と笑った慶次は後ろを向いてひより!と声をかけた。
「はいっ!」
慶次の後ろから、薙刀を持ったひよりがさっと前に出た。
「おっと…。いつもの猿がなかなか可愛い人間に化けたのかい。薙刀なんて物騒なもの持っちまって」
慶次は元親の目をじっと見る。
元親は慶次から目を離さない。
ひよりは凪の目を見ている。
凪はひよりから目をそらさない。

「とにかくさ、こんなもん戦に使うもんじゃねぇ。使い方変えれば日ノ本もっと良くなるぜ?あんただって本当は戦のない平和な世の中を望んでるだろ、西海の鬼…」
「うるせぇな、なめてんのかあんたは。愛だの恋だので通じるならこの世は色惚けだらけだぜ。世の中いい天気ばかりじゃねぇ!」
びりびりとした緊張感が漂う。
「生憎こっちはあの豊臣にひっかき回されて気が立ってんだ、この鬼に食われる前に帰ったらどうだ」
「秀吉に…?」
一瞬、慶次の顔が変わった。
「秀吉がここに来たのか?何のために?兵器を狙いに来たのか?…あんたも秀吉のもとにつくのか?他に何か言ってなかったか!?教えてくれッ!」
矢継ぎ早の質問に元親はとうとう怒り出した。
「黙れやッ!風来坊、あんたの目的はこの鬼か!?秀吉か!?秀吉なら最初からこんなとこ来んじゃねえッ!」
「…西海の鬼も…戦いでしかわかりあえないのか…!」
元親は碇槍を構えると慶次に向かって走り出した。
「鬼の庭を荒らしてただで帰れると思ってんのかぁッ!」
元親を援護するように走り出した凪の進路をひよりがふさいだ。
「凪様、といいましたね。あなたの相手はこのひよりがいたします」
「…いいだろう。ただし!あなたが前田殿の寵愛を受けているとはいえ手加減はしないよ!」
「手加減は無用でございます!槍の又佐の二つ名を持つ我らが殿、前田利家様の槍と、利家様が愛するまつ様から教えていただきました薙刀の技、ご覧あれ!」
そんなひよりと凪のやり取りを聞いていた慶次が笑う。
「いいね!ぞくぞくしちゃうぜ!惚れちゃうね、ひよりも子鬼ちゃんもさ」
「余所見すんじゃねぇ風来坊!」
船の上で超刀と碇槍が、薙刀と長刀がぶつかった。

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あきゅろす。
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