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小説
詰め所の中の戦
政宗の城では、戦が決まると男と女が体を重ねることは禁じられている。
にも関わらず、毎夜政宗の部屋と小十郎の部屋には寵愛を受けようと女中が訪れた。
中には政宗と小十郎の両方から寵愛を受けようとする者が出たり、政宗に断られたから小十郎に、なんてしたたかな者もいる。
政宗と小十郎は来る者来る者みんな断った。
今夜も繰り返される、同じような会話。
「Ahh!?禁じられているのを知らねえのか?」
「では…戦の間…少しだけでも私を思ってくださいますか?」
「できるわけねえだろ!戦の最中は女のことを考えてるヒマはねえんだよ…」

「片倉様…お慕い申し上げます…。どうか…」
「夜中に女一人でこんなところに来るんじゃねえ。今は大事な時なんだ。女にかまけてる時間はねえ」

女中の詰め所にも次第に荒れた空気が流れ始めた。
「あんた、昨日政宗様に断られたからって今日片倉様の部屋に行くってどういうことよ!」
「やめてよ!今日は私が片倉様の部屋に行くんだから!」
そんな争いを真理は冷めた目で見ていた。
「真理もなんとか言ってよ!この子ったら政宗様に告白して断られたら片倉様に慰めてもらおうとしてんのよ!私、小十郎様に抱いてもらおうと思っていたのに!」
ああ、嫌だ嫌だ。
「…この城では戦の前は男女が体を重ねることは禁じられていることを教わらなかったの?女中として初めて城に入って政宗様に挨拶したとき、政宗様もしくは片倉様にそう言われたはずだよ。普段戦がないときに部屋を訪れるならまだしも、一番行ってはいけないときにどうしてみんながお二人の部屋に行くのか不思議で仕方ないな」
冷めた真理の言葉に女中たちが一斉に反論する。
「きっかけが欲しかったのよ!たとえそれが戦でも!そうすれば少しは政宗様や片倉様だって私のことを…」
「真理、あんた相変わらず気に入らない。少しだけ政宗様と片倉様に気に入られてるからって何よ!」
「いい気になるんじゃないわよ!…もしかして、私たちが政宗様や片倉様に断られたのを見計らっておいしいところを全部持って行くつもりなんでしょう!?」
真理はとうとう怒り出した。
「それならなおさら戦のないときにすればいいじゃない!政宗様も片倉様も今は戦のことだけを考えなきゃいけない大事なときなのに!戦が終わったらでいいじゃない!自分の気持ちだけを押し付けられたらお二人も良くは思わないでしょ!?」
真理の言葉に部屋がしん、と静まり返る。

「私…真理の言ってることわかる…」
声の主は先日真理をひっぱたいたうめのだった。
「うめのさん…」
「私も…真理と同じ気持ちだわ。今のお二人には戦に勝つことだけを考えてほしいから…。私たちはお二人のことはもちろん、政宗様についていく軍のみんなの無事を祈ってればいいと思う」
「なによ、いい子ぶって!」
口々にそう言いながら女中たちは出て行った。

「うめのさん…」
「真理、私ね…。先日片倉様に直接想いを伝えに行ったの。…片倉様は…結婚を考えているほど好いた女がいる、って…。結局振られちゃったんだけどなんかすっきりしたの。真理が言った通り、自分で思い切って言ってよかった」
小十郎の結婚を考えているほど好いた女というのは…間違いない、みねのことだろう。
この戦が終われば…小十郎とみねは夫婦になるのだ。
「真理は…いつも一緒に畑で片倉様といて…何とも思わないの?」
「厳しい方ですから、片倉様は。他人にはもちろん…自分にはもっともっと厳しい方、だから…。だから戦の間は何があっても畑は守らなきゃ」
「そう…」

うめのと別れ、一人部屋に向かう途中に小十郎と会った。
真理は軽く微笑んで通り過ぎようとする。
「…?」
腕を掴まれ振り向けば、切ない表情をしている小十郎が見えた。
「…失礼します」
真理は頭を下げて部屋に戻る。
「真理…」
ぽつりと名前をつぶやくと、小十郎の胸が苦しくなった。
連日連夜、小十郎に抱いてほしいと女中が来るようになったが真理の姿は一度も見たことがなかった。

その後も女中たちの政宗と小十郎を巡る争いは続いたが真理はそれに加わらず、それを尻目に畑作業に精を出した。
「おっかない人が隣にいないと寂しいな、なんてね。畑にくれば政宗様も片倉様も独り占めし放題なのにおかしいですよね。…まぁ案山子なんですけど」
あはは、と案山子に笑いかけながら真理は野菜に水をやる。
「長曾我部軍の凪様が炊事場と竈をお守りしているように、私は畑をお守りいたします。政宗様…、片倉様…。どうかご無事で…」

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