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ドルチェ × ドルチ
番外 結婚記念日 前編/+20/兄視点
9月9日という日に、僕ら兄妹はそろって頭を抱えていた。

僕達にとっては余り接点の感じられない日だけれど、『僕達』が生まれる切欠という意味では大いに接点のある、そんな日。
年に一度必ず訪れるその日を前に、僕は切迫した面持ちでカレンダーに目をやった。

「おにいちゃん、どうしましょう、か…」

母親によく似た相貌を困惑で歪めながら、桜弥はいまだにカレンダーに目をやったままの僕を見る。
いつまでもカレンダーを見つめても救いにならないことは本当は良く理解してる。
溜息ひとつをついて、桜弥が持っていた紙へと視線を落とした。

「…桜弥は何がいいか、って聞いたんだよね?」

困惑顔のまま、こくりと1度首肯する様は愛らしい。
シスコンとか、そういうつもりは無いつもりだけど、贔屓目抜きにもこれは可愛いかもしれない。
既にその思考がやばいのかも知れないとか思いながら、紙に記された桜弥の文字に目を走らせた。
書かれている文字は、『2人とも休日』や『前後1週間休み』、『マフィア殲滅』『骸の手料理食べたい』と後半にいくにつれてただ単にそれぞれのいいたいことになってきている。
それでも律儀にメモを取っているあたり、そこらへんの桜弥の性格は父親譲りだろう、とぼんやりと思う。

「おにいちゃん、綱吉君にお願いしたら、出来ますか?」
「あー…多分、無理だよ。ボスでも流石に…、でも少しなら、どうにかなるかも」

あのお人好しのボスならば何とかしてしまうかもしれない、そう答えれば、桜弥は父親譲りの碧眼をキラキラと瞬かせる。
あぁ、この期待に輝く目は何だかんだ言って母親譲りだ。

「それでは、綱吉君にお願いしてきます!」

セーラー服の裾を翻して駆けていく桜弥の後ろ姿は、もしかしたら昔の母親とそっくりなのかも知れない。
それを知ってるのは父親だけなのだけれど、きっと間違いないんだろう。桜弥を見ては「学生時代の恭弥を思い出します」と嬉しそうに切り出す父親を何度も見ている。
桜弥が帰ってくるまでに9日の料理を決めてしまおう、と足を台所へ向ける。
折角の記念日まで父親に料理させるのは忍びない、というか、きっと料理してる時間すらあの2人には耐えられないだろう。
何年経とうが仲睦まじい2人に桜弥は憧れているようだし。

(…さて、料理はやっぱりハンバーグとチョコレートケーキは外せない、よね)

折角の記念日に2人の好物を外すわけにはいかない。
食べ慣れている料理だけに、僕の腕が問われているのだろうけれど、それならその勝負に乗るまでだ。
例えどんな形だろうと、『勝負』には負ける気にはならない。
そういう所も、あの2人の血をしっかり引き継いでいるって判って、思わず苦笑してしまう。
ぱたぱたと軽快な音が廊下に響くから、きっと桜弥が帰って来たんだろう。
今電気が付いているのはこの台所だけだから、わざわざ居場所を教える必要はない。

「おにいちゃん! 綱吉君が良いって言って下さいました!」

桜弥の言葉に僕は短く返事をすれば、嬉しそうに高い位置で結った黒髪を揺らして頷く。
エプロンを手に取った桜弥は、多分手伝うつもりなんだろう、けれど。

「桜弥は、父さんと母さんに明日のことを伝えてきて。それから、今日の夕飯どうするのか聞いて」
「…はぁい。パパンとママンは鍛錬場ですか?」
「そう。何時もの時間までは居ると思うから」

渋々エプロンを置いた桜弥が残念そうな表情を見せながらも、鍛錬場へと向かったのを横目で見て、溜息を吐く。
桜弥に料理をさせないのは僕の意志じゃない。
半分くらいは、僕の意志もあるけれど殆どは父親の意志。
桜弥も年頃になるんだし、料理くらいは良いと思うんだけれど…
まぁ、何れはどうにかなるだろう。

後数時間で迎える9日の事を考えながら、慣れた刃物を手にした。

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