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ドルチェ × ドルチ
001 兄、帰還 後編
恭雅達家族が住んでいるのは、風紀財団の奥の奥。
私室として区切られた所で、恭雅は家に着くなり直ぐに訓練所として設けられた部屋に足を踏み入れる。
和風のアジトには不釣り合いな機械音を立ててドアがスライドすると、派手な金属音。

「やっぱり、母さん達は此処なんだね」

楽しそうに戦闘を繰り広げる両親を前に、恭雅は溜息を吐いた。
大体は父親が勝つのだけれど、戦闘間にもいちゃつくのは問題だ。
この前は勝敗の云々よりも、どっちが先に戦闘中にキスをしたかで痴話喧嘩をしていたのを思い出すと、恭雅は訓練所の端に備え付けられている椅子に腰掛けた。
戦闘に夢中になっている両親には届かない可能性の方が限りなく高いが、それでも一応帰宅したことを言うべく声を掛ける。

「父さん、母さん、今帰ったよ」

告げるだけ告げるが、やはり2人の武器のぶつかり合う音でさっぱり聞こえている様子は無い。
仕方ないなぁ、と恭雅は父親譲りの色の髪を掻き上げると、両手を口に添えて簡易メガホンを作ると、出来る限りの大きな声でいつもの台詞を口にした。

「父さんのデスクに書類よりも高くラブレターが積んであったよ」

恭雅の言葉に、トンファーを振るっていた恭弥の動きがぴたり、と止まる。
そして勢いよく恭雅の方を向いたかと思えば、次の瞬間には恭雅に詰め寄っていた。

「何ソレ、聞いてないんだけど。ていうか僕の骸に手を出すなんて何処の何奴? 今から咬み殺しに行くから洗いざらい吐きなよ」

息子の両肩をがしっとわし掴んだ母親に嘆息しつつ、恭雅は半眼で返事をする。

「嘘だよ、母さん。そんなことになる前にボスが処理しちゃうし」
「そうですよ、恭弥。僕が恭弥以外の女性に興味があると思いますか?」

息子に助け船を出すように骸が後ろから声を掛ければ、恭弥は息子から両手を離す。
くるんと身を翻して先程まで戦闘していた骸にタックル同然に抱きついた。

「本当!? 嘘じゃないね!? 嘘だったら嫌いに…ああああ、なれないなれないよ!!! 嫌いになるなんて無理ッ!!」

骸にしがみ付く様にくっ付けば、よしよしと頭を撫でられている恭弥。
相変らずのいちゃ付き振りを眼前で繰り広げる両親に嘆息すると、恭雅は先程口にした言葉を繰り返した。

「うん、まぁいいんだけどね。僕は何時も通り今日明日は家に居るよ」
月に一度ボンゴレ本部に帰宅する恭雅は、普段は独立暗殺部隊ヴァリアーで生活している。
既に一幹部として活躍する恭雅は、自宅に送ったおいたボストンバッグを引きずり出すと、徐にバッグの中身を取り出した。

「はい、これ。今回は、スク先輩が上級フグ直送で送ってくれて、ベル先輩からは改造匣、ルッス先輩からはブランド服、レヴィ先輩からは裏で横流しされてた母さんの盗撮写真とネガ、フランからは父さんに連絡よこせって伝言、それからボスからは高級メーカーのチョコ詰め合わせ」

ぽいぽいとバッグから次々と取り出すと、両親は何時も通り何気なく恭雅が出した品を眺めている。

「わお。フグ刺し食べたかったんだよね」
「うん、先週から言ってるよね。まぁ、だからスク先輩くれたんだろうけど」

あのヴァリアー唯一、否もしかしたらボンゴレ唯一と言って良い程の常識人であるスクアーロは何かと恭雅の世話を焼くことが多い。
ヴァリアー幹部は皆、才能のある恭雅を弟の様に可愛がる為、帰省する度にこんな量のお土産を寄越すのだが。

「…………まだ流出してるんですか、恭弥の写真…向こうの雷には礼を言っておいて下さい。それから、フランには『お前が逃げるのが悪い』と伝言を」

レヴィからの土産もとい流出品を片手に、骸は大仰に溜息を吐く。
恭雅の同期でありそしてヴァリアーの霧であるフランは骸の一番弟子である為、フラン一人は大抵伝言だったりもする。
ネガを灰に還していた骸の袖をついつい、と摘んだ恭弥の方へ目線を移せば、ザンザスから贈られたチョコを既に食していて。

「むぐ、…骸、これ美味しいよ? はい、あーん」

一口サイズのチョコを摘んでいた恭弥が骸に口を開ける様に促せば、骸も何の疑問も持たずに口を開けるのでチョコは難なく食された。

「…あのさ、息子の前でソレやる? チョコよりも甘ったるいよ…」

今更無駄だとは思いつつも、一日三食の食事の時すら繰り返される行為に流石に音を上げる。
文句は言いつつも、送られてきたチョコを摘んで口に含んだ恭雅は「うん、このチョコより甘い」と評価した。

「ソレって、どれ?」

きょとん、と首を傾げた恭弥に恭雅は愕然とする。
両親は多少世間からずれているところが有るが、『こそあど』くらい解るだろうとふんでいたのに。

「…ごめん、なんでもないや…」

理解を求めるのと、常識を求めるのはこの二人には無理だ。
恭雅すら一般とは掛け離れているというのに、それを上回る非常識っぷりに嘆息すると、苦笑した骸が恭雅の頭を撫でた。
大人しく撫でられていると、未だにチョコを摘んでいた恭弥が片頬を膨らませて空いている骸の手を掴むと、ぽすんと自分の頭の上に乗せた。

「おやおや、恭弥は恭雅にヤキモチですか」

大層楽しそうに笑う骸に、ヤキモチを妬かれた張本人の恭雅は何とも言えない顔をして恭弥を見る。

「…母さん、母さんから父さんを取る気もないし、取ろうとも思わないから安心して」
「うん。駄目だから。絶対駄目だから」

他の幹部が見たら卒倒しそうな勢いと殺気を込められた視線は、幸いながら両親の血を色濃く受け継いでいる恭雅には何ともない。
寧ろ、向けられ慣れているという切ない現状に出もしない涙を堪えるのに必死だ。

「まぁ、そんなこと考える無粋な輩は居ないけどさ…」

もごもごと最後のチョコを頬張りながらぼんやりと呟く。
時計を見やればそろそろ夕食にしてもいい頃合いで、恭雅はボストンバックを掴むと自室に戻ろうと踵を返す。
両親も丁度切り上げる頃らしく、それぞれの獲物を仕舞うと恭雅の後ろを歩き始めた。

「そういえば、今日の夕飯は?」

恭雅からバッグを受け取った時にふと尋ねられたことにより、骸は恭弥と眼を見合わせた。
恭弥はことんと首を傾げて一切関与していないことを意思表示すれば、見る間に骸が青ざめていく。

「………仕込み忘れてました…」
「わお」

微かにショックを受けたような恭弥は言わずもがな、骸の手料理が大好物な訳で。
ソレを充分知っている恭雅と骸はどうしようかと顔を見合わせた。

「い、今から急いで作ります!」
「僕も手伝うよ!」

荷物を部屋に放り込んで、急いで台所に向かう骸を追いかける。
料理が得意では無い恭弥は、支度が出来るまでのんびりと仕事でもしようかと仕事部屋に足を向けた。
夕食の良い匂いが漂ってくる頃には恭弥も仕事を粗方終え、凝り固まった筋を伸ばしていて。
呼びに来た骸に対して、恭弥も笑みを浮かべて返事をしたのだった。

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あきゅろす。
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