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ドルチェ × ドルチ
001 兄、帰還 前編
実力とか経験とか実践とか運とかなんて言うのは、言わば後付けの理由で。
結局この二人の遺伝子ならば、仕方ないのか、と誰もが思った。






ドルチェドルチ







イタリアに名だたるマフィアであるボンゴレファミリーでの定期幹部会義の最中に非常警報は無遠慮に鳴り響いた。

「全員アジト周辺を確認!」

ボスである綱吉のその一言も有り、幹部は蜘蛛の子を散らした様に部屋から飛び出していって、一気に会議室は閑散とする。
恐らく相手は先日から拙いハッキングやら盗撮を繰り返してきた弱小マフィア。
簡単に予想がついて綱吉は溜め息を吐くとグローブを両手に嵌め、自分の直感を頼りにアジト内を突き進んだ。
すると、先程出ていった筈の守護者達がぽつりぽつりと帰ってくる。
問えば、久し振りに帰ってきた猛獣が暴れたらしい。
その台詞に綱吉は納得して携帯を取り出すと霧の守護者に電話する。3コール目にきっちりと出る辺りが相変わらずだ、と思いながら綱吉は問いかけた。

「…で、どうなってるわけ?」

用件を告げずに簡潔に問えば、電話相手はさも楽しそうにその独特の笑い声を溢す。

「どうもこうもあったものではありませんよ。あの程度の輩だったので、暇を持て余していた恭雅が片付けてしまっただけのことです」

骸の声の後ろの方からまた別の楽しそうな声が聞こえてくるのを聞き取ると、綱吉は胸ポケットに入れていた手帳を取り出して目をやる。
びっしりと予定の書き込まれた手帳の合間を縫うように違う色のペンで書かれた文字を眼で追って、ぱたんと手帳を閉じた。

「骸、後で恭雅に俺の執務室に来るように伝えて。此で撃退20回記念になるから」
「ええ、解りました」

プツン、と電話を切ると、綱吉は改めて小さく溜め息を吐く。
恭雅は歴とした8歳の子供にも関わらず、本部の幹部にも勝るとも劣らないレベルの戦闘能力がある。
現に、その腕前を買われて既にヴァリア―の幹部として活動しているくらいだ。
それは、親が親だから、と言ってしまえれば楽なのだけれど。
どうしたものか、とアジトの執務室に足を運べば、扉の前で藍色の髪をした少年がぽつんと待っていた。

「ボス、呼ばれたから来たよ」

綱吉は笑いかけると、少年を執務室に入る様に手招きして室内に招くと、マホガニーの引き出しからリングが大量に入った袋を取り出してそのまま少年に渡した。

「わお、こんなにいいの?」

口調は母親そっくりの少年が父親譲りの独特の色合いの髪を揺らして綱吉を見上げる。

「良く頑張ったから、ご褒美だよ。リングもう少しで無くなるって聞いてたからさ。恭雅の属性の雲と霧で良いのが入ったからあげるよ」

ぽんぽん、とまだ小さな頭を撫でると、父親より邪気のない笑顔が返ってくる。

「それじゃ、有り難く頂くよ」

ポケットには確実に収まりきらない袋を両手でしっかりと抱えると、恭雅と呼ばれた少年は時計を見やった。

「時間まだ結構あるよね…、武兄と修行してこようかな」

うーん、と唸る姿は些か年不相応ではあるものの整った顔立ちは美形の両親の遺伝子をしっかりと引き継いでいた。
恭雅のその言葉に思わず綱吉は固まる。
戦闘センスは子供ながらに抜群の恭雅はアジト内にある鍛錬所を破壊する事もしばしば。
ひくり、とつり上がった片頬は気のせいではないだろう。

「きょ、恭雅…、さっき雲雀さんが呼んでたよ?」

間違いではない。それは、間違いではない。
確かに、恭弥が恭雅を呼んでいたのは事実で、何ら問題は無い。
骸と結婚した事により、雲雀は旧姓になったものの、骸が他者に恭弥の名前を呼ばせない為、未だに『雲雀さん』という呼びのままだ。
恭雅もそれは理解しているのか、何一つ疑問に思った事も尋ねてきた事もない。

「…おや、母さんが、か…それじゃ、仕方ないね」

至極つまらなそうな、それでいて満更でも無いような顔をしながら、恭雅はぽつりと呟く。
けれど、その表情は既視感を覚える表情で、綱吉は結局内心で叫ばざる終えなかった。

(顔は骸そっくりだけど、表情が完全に強い敵と対峙した時の雲雀さんだぁああああ!!!)

「それじゃ、ボス。また有事の際は呼んでね」

わくわくとした表情を隠すことなく綱吉にお辞儀をすると、恭雅はそのまま自宅のある風紀財団に向かって歩き出した。

「ん―…絶対大物になるよなぁ…」

両親の良いところをしっかりと受け継いでいる恭雅の後ろ姿を見送りながら、綱吉は改めて溜息を吐くと残っていた書類に手を付けるべくデスクについた。

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