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骸雲
弟子から見た2人、/骸雲+蛙/+10
君と僕と、時々蛙。
そんな生活も悪くないって思えるんだよ。


師匠は何処からどう見てもイタリアに居そうな優男の外見だけれども。
見た目に騙されると色々と痛い目を見るのは、師事について1年で学んだ。
和風の長い廊下をぺたぺたと素足で歩く。
此処に居る時は問答無用で和服にさせられるから、異国のこの服装も大分慣れた。
サインを貰わないといけない書類を片手で弄びながら、師匠が居そうな部屋を片っ端から探してみる。…けれども、居ない。
意外と広いこのアジトを端から端まで探すのはとんでも無い時間が掛かりそうなので、居そうな所をピンポイントで探すけれど、何処にも居ない。
…正確には、あと1カ所、見ていないところが有るけれど。
いや、今はまだ日も高い昼だし。(とは言っても此処は地下アジトだから日なんて見えないけれど)
まさか、と疑いたくなる気持ちと裏腹に、足は勝手に最後の部屋に向かって進む。
いやいや、まさか。幾ら師匠でも昼から盛ってるわけ無いじゃないですか。
…と、弟子は思いたい訳だけれども。

「わーお…やっぱり真っ昼間から盛ってたんですか、師匠―」

広々とした和室の真ん中に敷かれた布団で微睡む二つの陰に、思わず嘆息したのは言うまでもない。
昼から盛るな、と何度言ったことか。これで修行が無くなるんだから、笑えた話じゃない。

「ししょー、しーしょーおー。此処にサインくださーい。ボスに提出しなきゃいけないんですよー」

広い布団でぴったりとくっついて眠る内の1人の藍色の長髪を引っ張る。
…というか、まだ寝てるつもりなのだろうか、この2人。

(普通、起きますよねー。てか、起きろよ)

内心毒づきながら師匠の無駄に整った寝顔を観察していると、徐に殺気が飛んでくる。
それと同時にヒュンと空を切る音が鳴ると、背後の壁に力強い音を立ててぶつかった。

「危ないですよー。ミーに当たったらアレ重症どころじゃすみませんよー。何するんですかー」

さっきまで居たところから少し離れた所で抗議の声を上げると、未だに殺気漲る漆黒の双眸に睨み上げられた。
…残念ながら、師匠に師事する様になってからの付き合いだからこの殺気にも慣れてしまっている。無駄だというのに何故こんなにも殺気を飛ばしてくるかと言えば。

「何無断で僕の骸の寝顔見てるの。咬み殺すよ」
「だったら師匠起こしてくださーい。何でミーが来た気配で起きないんですかこの人―」

寝顔1つでこの殺気なのだから、慣れない方が可笑しいのかも知れない。
取り敢えず、無抵抗無防備な事を証明する様に両手を軽く挙げてみせると、剣呑に薄められた漆黒が目線をずらして、未だに眠る彼にまるで同一人物かと疑いたくなる程優しい眼差しをやった。

(俗に言うツンデレですよねー…まぁ、そんなバカップルを何時も見てるミーの気にもなれって話ですー)

相変わらず毒づく内心を余所に、先に起きた彼は、漸く寝顔観察を終わらせたのか眠っている為に薄く開いた唇に遠慮無く己のソレを重ねる。
ゆるゆると開いた色違いの双眸が数度瞬くと、外見から想像がつく甘いテノールが零れた。

「お早う御座います、恭弥」
「お早う、骸。あの蛙が君に用があるみたいだけど」

相変わらずの物言いに、最早閉口せざる終えない。
今更どうこう言ったところで変わりはしないのだから、此処は大人しく口を噤んだ方が得策であることも、やはり師事した時に学んだこと。

「…蛙? …あぁ、フランでしたか。どうしました?」

寝ぼけ眼で半分くらいとろんとした双眸が此方に向くと同時に、その後ろの漆黒の双眸はこれでもかと言わんばかりに漲った殺気を飛ばしてくる。
…目を合わせただけでこの殺気は如何ほどだろうか。

「師匠―、この書類にサインくださーい。序でに、早く覚醒しきってくださーい。ミーが死にます」

ほんのりと薄暗い室内でヘルリングの炎をチカチカと灯す。因みに、光の意味は言わずもがな、モールス信号。
トトトツーツーツートトト、つまり、SOS。
ソレに気付いた師匠は、片方の口角だけを上げると、書類に手早くサインをする。
そのまま書類を手渡されるかと思いきや、はだけた着物を直すとそのまま立ち上がり、書類を高い位置に持って行く。

「はい、出来上がりました。持って行って結構ですよ」
「明らかに態とですよね―。ミーが届かないこと知っててやってますよねー」

それでも、一応努力として奪い返そうとしてみるものの、紙切れはひらひらと宙を舞う上、師匠との身長差の兼ね合いも有り、届くわけがない。
惜しいことに、指先を掠める事が出来るかどうか。

「ねぇ、ちょっと。いつまで僕の骸とじゃれてるつもり」

ぱしり、と師匠の手首が捕まれると、難なく書類は別の人物の手に渡る。もうアレは作為的に師匠が渡したと言って過言じゃない。無抵抗とは何事だ。

「これが僕と骸の至福の微睡みを邪魔したっていうの。へぇ、たかが紙切れの癖に…生意気だね…」

理不尽な八つ当たりの言葉を一心に受ける紙切れに思わず同情。
このままではたかが紙切れといえど、大切な書類が大変な事になるので思わず必死になって奪い返すと、些か落ち着いた漆黒は興味なさそうに踵を返した。

「哲にご飯の準備させるよ。…蛙も食べていくんでしょ」
「蛙じゃないですーフランですー。ミーも頂きますーお腹ぺこぺこなんでー」

再三呼ばれる『蛙』に、いい加減に疲れてきた否定の言葉を述べれば、漆黒は興味なさそうに襖の外に消える。
寧ろ、興味を持たれること自体が厄介なので、それはそれでスルー。

「ところで、フラン。この前差し上げたヘルリングはどうでした?」

そんな漆黒の姿に咽をくつくつとひくつかせた師匠は改めて此方を向いて手元の指輪へ視線をずらした。

「あー、相性は良さそうなんですけど、あのカエルの被り物のせいで全く開匣出来ません―」

師匠から一通り術を教わった後に貰ったヘルリングは、あのでかいカエルの被り物のせいでまともに開匣したのは師匠の前で一度だけ。
そもそも、あんなでかい被り物を付けた状態で開匣ポーズなんてとれる訳ない。
なんで開匣ポーズなんて付けたんだろう…。

「あ―…まぁ、どうにかなるでしょう。被り物なんて気合いでどうにかしなさい。…さて、これ以上待たせては恭弥に怒られますね…そろそろ行くとしますか」

(気合いでどうにかなるんだったら、まず師匠達のいちゃつきっぷりをどーにかしますー)

内心でそう訴えつつ、師匠の後に続いて廊下に出ると、その秀麗な顔ににっこりと笑顔を浮かべた師匠が振り返った。

「例え気合いでも、僕と恭弥の仲はどうこうできませんよ」

師匠は読心術がお得意でした。自分自身は目の前の人物から習ったのだから、当たり前と言ったら当たり前。
さっきの寝室から少し行った大広間には、既に3人分のお膳が用意してあって、漆黒は既に膳の前に行儀良く座っている。

「…遅いよ、蛙」
「…ミーだけですか」

漆黒、もといヒバリさんが文句を言う時、大抵師匠は省かれる。
何でも、師匠だったら大抵のあらゆる事は師匠という存在自体で許されるらしい。絶対王政か何かだ。
文句を言いつつも、用意された膳の前に座って、使い慣れた箸に手を伸ばす。
ヴァリア―では常にイタリアンだから、此処に来た時の和食は1つの楽しみと言って良いかもしれない。
庭先では鹿威しがカコーンなんて呑気に風流を奏でて、まったりとした雰囲気になる。
騒々しいヴァリア―に比べると、やっぱり此方の方が落ち着く…と、居住まいを正した時。
バタバタバタ、と廊下を走る足音が大凡3人分。
ヒバリさんは構うことなく食事を続けるし、師匠に至ってはヒバリさんに今時の新婚さんでもやらない様な『はい、アーン』をやってもらってるので、そっちのけ。相変わらず、2人の世界に浸かりすぎだ。

「ッ雲雀さんッさっき此処に侵入者が来たって連絡が…ッー…!?」

すぱーん、なんて音が立ちそうな程勢いよく駆け込んできたのは現ボンゴレボス、沢田綱吉の10年前の姿。

(てか、まだ10年前の姿だったんですか、この人―)

襖の向こうの駆け込んできた人物に目線をやった後、ぼんやりとそんなことを思いながら里芋の煮付けに箸を伸ばす。
師匠達も特に気にするでも無く、全力で2人の世界を展開中。少しも外界を憚るという事はしない。

「…って、あれ!? 誰この人ー!? なんで堂々と飯食ってんのー!?」

あわあわと慌てるボンゴレボス(十年前の姿)は、思わず愛用のグローブをはめようとしてる。
いや、ソレはヤバイ。

「ミーは関係者なのでお気になさらず―」
「いやいやいやいや、意味分からないから!!」

茶碗を置いた手で怪しい者でないことをアピールしても、即答全力で否定。
まぁ、会ったこと無いから仕方ない話かも知れない。

「あー…師匠―、説明してくださーい、説明―」

2人の世界に浸る師匠をしょうがなく現実に引き戻すと、速攻漆黒の双眸がぎらりと煌めく。
師匠の着物の裾引いただけなんですが、ソレだけでも睨まれるのだろうか。

「…何、沢田。邪魔すると咬み殺すよ」
「や、邪魔って言うか…その人誰なんですか!?」

びしぃっと指差されるけれど、比較的ソレも慣れている。
普段があんなでかいカエルの被り物を強制されているだけあるなぁ、と思いつつも、師匠に目線をやれば。

「あぁ、沢田綱吉には言ってませんでしたね。この子は僕と恭弥の息子です」

何を仰るのですかね、この師匠は。
口元に張り付いた笑みは如何にも清々しいけれど、コレは腹に一物二物抱えた時の師匠の笑顔だ。

「え、えぇええええええ!?」

そりゃぁ、驚くでしょうね。と相槌を打つと、ヒバリさんは何故か頬を赤らめた。え?

「ちょっと骸…そう言うことはいきなり言わないでよ…」

(何乗り気になってるんですか―…訂正くらいしたらどうですかー)

師匠の悪ふざけに乗る悪い癖が出ているヒバリさんに目線をやれば、見たこと無い様な笑顔でにぃっこりと微笑まれる。

「わぁぉ…嫌な予感ですー」
「ほら、僕の口癖移ってるでしょ?」

しまった失言、と思った時には時既に遅し。
師匠とヒバリさんに両サイドをがっちりと固められて、目の前のドン・ボンゴレは物凄いものを見る様な目で見ている。

「あんまり見ないでくださーい。穴開いちゃいますー」
「えぇえええ…本当に骸と雲雀さんの子供なんですか…?」

(信じるなよー…超直感とかあんでしょーがー…)

ウンザリする様な驚き様に、呆れてものも言えない。取り敢えず、内心で毒づいておく。

「つか、ヒバリお前男だろ?」

いつの間にか来ていた(てか、初めから居ましたかー)自称右腕が当然の様にのたもうと、ヒバリさんはこてん、と首を傾げてさも当然と鼻で笑った。

「僕が男だなんて何時言った? 君たちが勝手に勘違いしただけでしょ」

(いやいやいやいや、正真正銘男じゃないですかー。勘違いも何もあったもんじゃないですよー)

いけしゃあしゃあとのたもうヒバリさんにウンザリした目線をやれば、頭を撫でられる。

「ほら、フラン。一応ボンゴレに挨拶しておいてあげなさい。君のことはさっぱり知らないのですから」

一応、と言うところにアクセントを置いた師匠に促されて、仕方なくヒバリさんに向けていたウンザリとした視線を外すと、未だに困惑しているドン・ボンゴレに目をやる。

「どーもー。特別暗殺部隊ヴァリアー幹部フランって言いますー一応術士ですー。師匠が何時もお世話になってますー」
「こら、フラン。ボンゴレは僕と恭弥のお世話になってるんですよ。僕が世話になるだなんて甚だ信じられません」

眉を吊り上げた師匠は、全くをもってごもっともな意見を述べるけれど、まぁ、社交辞令としての言葉くらいは聞き流せないものだろうか。

「まぁ、ミーにはどっちでも良いです。てか、社交辞令くらい解れ」

えい、と振りかぶって師匠の独特の後頭部目掛けてチョップを振り下ろすけれど、当然の如く避けられる。
まぁ、コレで避けれない方が問題だけれど。

「この様に恭弥に似てお転婆でしょう?」

さっきの行動が拍車を掛けたのか、頭をぽんぽんと叩かれる。

(…あれー…なぁんで師匠、幻術で結婚指輪なんて作ってるんですかー)

左薬指に光る指輪の幻術に、本気でからかい始めた気配を感じ取ると、恐る恐る反対側に座るヒバリさんの左薬指を確認。
全く同じデザインの指輪の幻術に、溜息を吐き出すと、改めてドン・ボンゴレを見やった。

「まぁ、そういう事で、よろしくですー」

此処まで来たら、この2人の遊びに乗るのも悪くない。後でノリが悪いだとかでからかわれるよりは何千倍とマシだ。
まぁ、ドン・ボンゴレ以下には悪いとは思わなくもないけれど、幻術の1つや2つが見抜けない方が悪いと責任転嫁して一件落着。
開き直りと思い切りと上司への裏切りに近い遊戯で構成される今回の高度なオアソビはなかなか楽しめそうだ。

「………え、えっと、こちらこそ宜しく…って、本当に二人の子供なのー!?」

リアクションの大きいドン・ボンゴレにご忠告差し上げるとすれば。

(そのリアクションの大きさのせいで師匠達に遊ばれてるって気付くべきですよねー)

そうは思いつつも、両サイドでいちゃつき始めた師匠達を尻目に、溜息を吐き出したのだった。

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某オフ会の書き下ろしでした

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