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骸雲
僕が好きな君、/骸雲♀/現代
並中をこよなく愛する彼女もこのGWは学校へと足を運ばない。
それを心得ているからこそ、彼女が惰眠を貪っている所へと襲撃した訳なのだけれども。

(どうしましょう…! 珍しく寝ていると思ったら、さっぱり起きません…!)

木の葉の落ちる音で起きるのが定評ではなかっただろうか。
すやすやと眠る彼女の姿を視認して近づいたはずが、今や手を伸ばせば触れられるというのに起きる気配すら無い。
何時も強い光を湛えた黒曜石の瞳は、今は長い睫に縁取られた瞼の下。
そうそう見られない寝顔をじっくりと見つめながら、持ってきた箱をそっと横に置く。
彼女の誕生日にあわせて買ってきたケーキだから、彼女が起きないことには意味がない。
予想通りの柔らかい髪を撫でて、掛け布団からはみ出した白い手に触れる。
普段あれだけ武器を振るっているというのに、女性独特の柔らかさを保っているソレ。
掌の、少しだけ固くなっている所を指先で辿れば、反射なのかきゅっと握りしめられて笑みが零れる。
無意識に求められているのか、それとも逃がさないようになのかは判断できないが、普段では見られないその仕草に胸の奥がくすぐったくなる。

(ですが、そろそろ退屈してきました。)

意外と幼い寝顔を眺めているのも楽しいけれども、矢張り動く彼女が見たいと思ってしまうわけで。
白くまろやかな頬に触れるだけの口付けを落とす。
本当は唇にしたいのだけれども、彼女が眠っている時に其処へ口付けることは禁じられている。
理由は簡単で、瞳を開いた瞬間に目一杯に広がる骸の顔を見るのが恥ずかしいから。
滅多に赤面しない彼女が真っ赤になって言ってきたその瞬間は忘れようもない。

「んぅ…? むく…ろ…?」
「はい、お早う御座います、恭弥」

寝起きの僅かに掠れた、少し気の抜けた声を聞けるのも特権か。
それが嬉しくて思わず綻んでしまった口元を引き締め直さねば、と意識をやった瞬間に触れたのは柔らかい唇。
珍しい、と目の前の彼女へと視線を向ければ、寝起きでぼんやりとしてるのかふわふわした様子で骸の首へと両手を回してくる。

「むくろ、なんでいるの? これは、ゆめ、なのかな?」

首元に埋めた顔をゆるゆると振ってから、首筋へと唇を這わせるのだからくすぐったくてならない。
未だにぼんやりとした声を発する彼女が珍しくて、そのまま様子を見ようと黙っていれば、首元の彼女は一人合点がいったのか顔を上げて骸の両頬に手を添えてうっとりと漆黒の瞳を細めた。

「むくろに、逢いたいって思ったから、夢で出て来たのかな。ちょっと、うれしいな」

うっすら頬を紅潮させて嬉しそうに笑みを浮かべる彼女が余りにも可愛くて、寝起きでふにゃふにゃとした体を抱きしめれば腕の中の彼女が小さく息を呑む。
力加減だとか、抱き潰してしまいそうだとか、気にするべきなのかも知れないけれど、今はそんなことを言っていられないくらいに愛おしくて堪らない。
彼女も漸くこれが夢でないことに気付いたのか、忙しなく静止の声をあげてくる。

「うそっ、骸!? なんで、いるの!」

慌てた彼女の顔が見たくて抱きしめた腕を緩めれば、今度は彼女がぴったりと張り付いているせいで顔が見れない。
紅潮しているから見られたくない、という意思表示だと理解しているけれど、だからこそ見たくなるというもので。

「おや、恭弥? どうしました?」
「判ってるだろ! 顔見ないで!」

そう言って一層強い力で抱き着いて来るのだから、矢張り愛らしい。
仕方ないので顔を見るのは諦めて、寝癖一つ無い柔らかな髪を撫でて彼女が落ち着くのを待つ。
脇へと避けておいたケーキの箱が視界に入って、本来の目的を忘れそうになっていたことに気付いて苦笑が零れた。

「ねぇ、恭弥。此方向いて下さい」
「何?」

漸く合わさった視線に笑みが零れる。
顔を見るだけで幸せになれるだなんて、随分と単純なものだと思いながら今度は骸から口付ける。
先程の触れるだけの口付けとは違う、愛しさを目一杯込めた深い口付け。
骸の肩に添えられていた手が、息苦しさに緩く抵抗を見せる頃合いを見計らって離せば、彼女は呼吸を整えるように大きく息を吸う。

「愛しい恭弥、お誕生日御目出度う御座います」

息苦しさのせいでうっすらと潤んだ目元に口付けて、本来の目的であった祝いの言葉を告げれば、珍しくきょとんとした表情の彼女が居て。
その表情でまた愛しさが込み上げて来てもう一度その柔らかな唇へと口付けを落とす。
今日は彼女は愛する学校へと足を運ばないのだから、1日かけてゆっくりしよう、と頭の中で計画しながら、未だに布団に座ったままの彼女の手を取った。

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あきゅろす。
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