キャラバンの上は、夜風が通り抜けて、とても気持ちが良かった。
満天の星空。今にも降って落ちてきそうな、それくらい近くに感じて、こんな時間だけ、何もかも忘れちゃいたいな、とか、思ったりして。
「…何してるんだ、藍」
「っ!」
「悪い、驚かせてしまったか」
「…鬼道、くん」
「呼び捨てで構わない」
ゴーグルの向こう側の瞳が、フッと緩んだ。
彼も、優しい心を持ってた。誰だって情はあるものだけど、やっぱり、前の幸次郎や佐久間みたいな優しさがあった。…前の、二人のような。
「眠れないのか?」
「…うん、緊張しちゃって、」
「そうか、俺も最初、眠れなかった」
「き、鬼道も、眠れないの?」
「隣にいるはずのお前がいなくてな、眠れなくなった」
「あ…ごめんね?」
「いや、俺が勝手に心配しただけだ」
彼のマントを身に着けていない姿を初めて見た。なにか物足りなさを感じる反面、新鮮で良いかも、とも思う。
帝国の時のあの、孤高の位置に君臨していた赤いマントのキドウユウトしか見たことのない私にとって、目の前にいる鬼道有斗は別人に見えた。
「…綺麗だな」
「うん、落ちてきちゃそうだね」
「…え、あぁ…藍、星も綺麗だが」
「へ、?」
「お前の髪だよ、ヤケに視界に入るな、」
銀色に見える…と鬼道は、自然と私に近づいてくる。
彼のゴーグルの向こう側を見つめると、いかにも興味津々、という感じの感情が伝わってきて、クスクスと笑った。
「私ね、他の人より肌の色素が薄いんだって
だから黒じゃなくて、ちょっとグレイがかってて、目もホラ、赤いでしょ?」
「そうなのか…あの、」
「触っても良いよ」
「あ、ああ…ありがとう」
そっと触れた彼の手は、夜風にさらされて
とても冷たかった。
欲しい理由が私にもわかったかもしれない
(言葉に出来ないような、惹きつけられる人だ)
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