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全身で、





彼女は1人暮らし


その情報を手に入れていて、俺に教えたのも辺見で。つくづく彼には借りを作りっぱなしだなと、取り敢えず生クリームののったプリンを渡したのは、テストが近くて部活がなかった今日。


きっとこのまま彼女の家に歩みを進めてインターホンを押しても、ジャッジスルーで追い返されるだろう。参謀の脚力は女でも嘗めてはいけない。


でめやっぱり、1人で悩むのなら傍に居てやりたくて。鬼道の代わりなんてなれないだろうけど。


それでも、惚れた弱みだ…あいつの気が済むなら、蹴られても後悔はしないよな。










全身で、










決して古くはなく、センスの良い造りのマンションの一室の前で歩みを止める。表札は佐久間。間違いないだろう。一度深呼吸して、インターホンをゆっくり、押した。




「……なッ」


「元気か?佐久間」



疑問もなく開け放たれた扉。彼女はやはり女らしいルームウェアで、整った顔を隠す眼帯だけが異様な存在感を表していた。



「……ッ何しに来たんだよ!!」


「お見舞い」


「いらない…ッ」



口先では否定の言葉を並べるが、その腕はただドアノブを握りしめているだけで。



「食べる?生クリームプリン」


「…………っ」


「なにもしないって」


「……………」



弱っているのは間違いない。すんなりて入れてくれるのも無防備過ぎるけど、それは相手が俺だからだよなと、ちょっと前向きに考えてみる。



「………ん、」


「お構い無く。食って良いよ」



ニッコリとした笑みで、差し出された湯気の立つココアと引き換えにプリンを渡した。佐久間は素直に受け取って、俺の隣に座った。



「もうテストだな」


「…………」


「俺さ、文系だから理数系苦手でさ…だから一緒に勉強会しよう?」


「…………」


「佐久間前古典苦手って言ってただろう?古典なら俺も教えられるし「源田」



…やっと呼んでくれたな、と一言


佐久間は、今にも泣き出しそうだ。



「……どうしたらいいのか、な……?」


「……うん?」


「もう終わって…ッお互い了解し合って……なのに…ッ」



佐久間が握り締めていたクッションが、涙で濡れる。冷めてきているココアに、お互い手をつけようとしない。



「おっ、と……佐久間?」


「…………体温は、安心するだろ………」



だから、だから抱き締めて



………もう離さないで






『心が砕けている間は、もう別に誰でも良いって思っちまうらしいぜ』



辺見の言葉が頭を過(よぎ)る。




これは、辺見のいうそれ?
それとも俺だから?



不安に狩られるけれど、今は何も考えないで
小さい体をカタカタと震わせるお前を、今はとにかく全身で…、





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