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    似たもの同士でも違う





息が出来る範囲ではあるが息苦しくて必要以上にもがくと、俺の口を塞いでいた手の主があッごめんなと手を離した。ぷはッと大袈裟に息を吐きだし、吸う、吐く、少しそれを繰り返した後、俺は心配そうに俺を見つめる彼の方へと視線を向けた。



「ご、ごめんな……」


「…いえ、見つかったら大変なのは俺も重々承知してますよ」



そう言うと彼は歳の割には絹のように柔らかく、彼が動く度に一息遅れて彼を追う長く美しい髪に視線を奪われる。艶やかに光を吸収し、外に惜し気もなく吐き出されキラキラと輝いているようだ。



「…有名人の貴方が、なんでこんなところに…」


「なんでって、ここは俺の母校だからな、懐かしくて来てみたんだ」


「それは知ってます、神童が言ってたから」


「神童?…ああ、円堂がそんな名前言ってたな。お前、霧野蘭丸だろう?」


「…なんで知ってるんですか?」



そう聞くと彼はクスクスと笑った。嘘みたいに整った顔のこれまた整った瞳が細められて、また俺の視界を奪って弄ぶ。透明感のある、腰までに達する空色の髪を引っ張ってやろうかと思ったけど、今度彼は何を思ったのか俺のぴょんぴょんと跳ねる髪を撫で付けるようにふわふわと優しく、俺の頭に手を滑らせた。



「俺に似てるからさ」


「…ハ、貴方に、俺が?」



俺が何も知らないと思ったか、一応円堂の幼馴染何十年やってるんだぞ、と彼は濡れた瞳を細める。円堂監督はこの人に何やらサッカーに関係ないことまで心配して、この人に相談しているみたいだ。あの人もやっぱりよくわからない。



「…俺は俺です、貴方とは違いますよ」


「…ああ、そうだな。でも」



そう言って、立ち去ったであろう人並みの足音を聞いて立ち上がった風丸さんが長い緩やかな髪を揺らして、俺を見下ろす。逆光で弾ける彼の青い髪が太陽に透けて、俺は目を細めた。



「俺みたいに将来、叶わない願いを引きずり続けることになるんだ、お前はきっと、絶対」


「……、」



悲しそうな笑みを向けられて、息が詰まる。そうか、彼は俺のように叶わぬ恋をして、そのままずっとずっと俺のように伝えようとしないまま、当たり前に打ちのめされてしまったんだな。



「可哀想な人ですね、風丸さん」


「…俺の名前知ってたんだ、蘭丸」


「俺は貴方のようにはなる気、さらさらありませんよ」


「…まぁ、それならそれで良いんだ」



そう言って彼は、また近づいてくる人並みの足音に耳を傾けたかと思うとあの甘い香りを残して、現役なのか俊足を見せ付けて俺の前から消えた。








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