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    愛しい空気を抱きしめた





※京介が亡くなってます
















「……今年も来たのか」



これが、あろうことにも墓石に悠々と腰掛けるコイツが、久々に会った俺に浴びさせた第一声だった。遠くの空が真っ青で、お墓参り日和、だ。



「また、背伸びたな」


「俺成長期だよ?当たり前だよ、剣城」


「……そう、だよな」



遠慮がちにも水浴びをさせ軽くタオルで拭いた後、紙皿に乗せたたくさんの菓子を墓前に置き、両端に大きな花を生けた。一呼吸ついた後きちんとしゃがみ直しマッチにシュッと火を灯すと、今まで微動だにしないまま俺の行動を見つめていた剣城がやっと墓石からフワリと空気のように舞い降り、マッチの火を蝋燭にそっとうつす俺に二歩歩み寄って来た。青空が透ける、剣城の濃紫の制服が近づいてきて、俺はゆっくりと顔を上げた。



「サッカー、楽しいか?」


「…、楽しいさ!剣城がいなくなった後も俺、頑張ってるよ!!見てくれてるよな?」


「フン、自惚れんな、お前のことばっかなんか見てらんねえよ」


「…ちぇ、そうなの?」



クスクス、誰もいない墓地に二人分の笑顔と、一人分の笑い声が響く。線香に火を灯して、パラリとゆっくり置いて、剣城を隣に置いたまま、俺はそっと手を合わせた。



「…オイ、天馬」


「…うん?ちょっと待って…」


「いつまでやってんだよ、顔、見せろ」


「、ッわあ!!」



グイ、と顎を掴まれ、無理矢理に剣城の方へ顔を向けられた拍子に俺は、バランスを崩して隣にしゃがみ込んでいた彼に体重を預けた。体温の無い剣城の、死人の(ように)真っ白な手が俺の少し日焼けした手に、スルリと絡みついてきて、愛おしそうに俺の顔をじ、と見つめる彼の、いつもよりもとろんと垂れた優しい、彼の瞳を俺もゆったり見つめ返した。



「…俺より背、伸びた?」


「うーん…そうかも…」


「俺より手も、でかい。声も、低い。ちゃんと成長してんだな。」


「……剣城は、変わらないよね」


「…ハハ、当たり前だろーが、だって俺」



今まで生きるのも辛かった。彼が俺の前からいなくなる、そんなこと理解したくなかった、信じたくなかった、今まで俺には彼のぬくもりがあったのに、そんなの、信じない、現実を受け入れたくなかったんだ。でも、コイツはこの時期に必ず、俺の前に現れて、そして俺を待っているくせに、必ず言う、また来たのか、って。
会えるだけで良かった、最初は。だけど年を重ねる度、俺は一人でどんどん、大人になって行く。ああまた、現実から目を背けて、俺はそれでもまだコイツの頼もしい腹筋に乗ったまま、彼の背中に腕を回す。



「俺は、死んでるんだから、な」



冷たい彼の腕の中、空気を抱く俺の腕、唇に触れる冷たくて柔らかくて、彼の味。



「…俺、お前とまたサッカー、したい…ッ」


「……天馬、駄目だ、お前は俺の分も、」



そして毎年毎年、コイツは俺のいらない言葉を口にする。











「天馬、俺の分も、生きろ」



やだよ、お前のぬくもりが、欲しい。俺もそっちに行っちゃ、駄目なのかなあ









愛しい空気を抱きしめた
俺の涙を冷たい舌で、掬う





--------krtr--------


お盆ネタ^q^
京天ではちょっとはやかった気がするけど、このふたりでお墓参りネタ書きたかったから後悔はしない、来年も書きたいですうふふ









あきゅろす。
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