初代拍手
「風丸!」
「…円堂、」
夕暮れ時だ、俺が学校帰りに寄った河川敷。夕日で誰かさんのバンダナの色と同じ色に染められたサッカーグラウンドを眺めてたら無性にボールが蹴りたくなってきて、何度も何度も一人でトラップを続けてた。
チラチラ、チラチラと視界にうつる自分の髪が邪魔になってかき上げた。
ダッシュしてこちらに駆け寄ってくる円堂は汗ひとつかかずに、俺の瞳をまっすぐ射抜いてくる。
「お前もサッカーやりたくなったのか?」
「まあな、円堂は鉄塔の帰りか」
「へへ、」
夕日に染められた夕日色のバンダナは、更に濃い色を俺に届けてきて、その器用に巻かれたバンダナをそっと触ってみる。
…背、伸びたな。
一年の頃は俺のほうがでかかった。小学校の頃から、いやもっと前から、お互い抜き抜かれを繰り返してた。そろそろ、こいつに負けるかも、なんて、ちょっと高いコイツのふわふわと猫っ毛な髪を撫でた。
「風丸、」
「…なんだ?」
「風丸は髪、切らないのか?」
「…ん、まあな」
「どうしてだ?」
「…今更切ったらお前らびっくりするじゃないか、それに」
「それに?」
「…いや、なんでもない」
…コイツと、走ってた、昔の思い出。
お前、やっぱり覚えてないんだな、お前が言ったんだぞ
『風丸は、髪長いほうが良いよな!』
…そんな、本人が覚えていないような言葉を気にしてるからなんて、言えないけど。
「まー、俺、風丸の髪好きだから、切らないで欲しいけどな!」
「っ! えんど、」
「ふわふわ、キレイだし」
大きい手、俺なんかよりずっと。
高めに結ばれた俺の髪を優しく、撫でる手に愛おしさをジワリと感じて、なんだかくすぐったかった。
「それに、」
「…うわッ」
「こっちの目、見れるのは、俺だけだろ?」
ニッカリ笑った円堂の夕日色の唇で言葉にならなかったけど、
「(…前言撤回、気にしてて良かった、かも)」
左目が見れる特権
(これからもきっと、切れないだろうな、髪)
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