思春期の男子的事情
「髪、切ろうかと思って」
「…は、?」
教室のど真ん中、5つの机を寄せ合って、帝国イレブンの中の二年組が昼食をとっている最中のハナシだ。
やっぱり冬は寒い、四季の彩りなどひとつもない帝国学園と言っても、いつも集まる屋上はさすがに寒すぎる。
コーラを口に運んでいた辺見が噴出しそうになって、隣に座っていた咲山が素早くポケットティッシュを差し出す中、源田はポロリと玉子焼きを箸から落とした。
「…さ、佐久間…今なんて…」
「髪、切ろうかと思って」
「…良いんじゃないか?」
「コラ鬼道勝手なこと言うんじゃない」
「…鬼道さんがそういうなら…」
「ゴホッグォハッッ」
「待て待て、辺見だけがツッコめてないから待ってやってくれ」
一人辺見の世話を焼く咲山が、いつもより数段柔らかい表情で佐久間を制す。佐久間は何故か、咲山のいうこと(だけ)は黙って聞くのだ。
佐久間は一気にイチゴミルクを啜ってから、フゥ、とひとつため息を吐いて、自分の髪を一束掬って、言う。
「…俺は実際には聞いてないんだけど」
「なんだ?なにかあったのか?」
「…俺の髪にジンクスがあるらしくて」
「…ジンクス?」
コクンと首を縦にひとつ落とした佐久間は、サラサラとかなり手入れされているであろう自分の髪を空に投げ、さっきよりも深いため息を落とす。
「…俺と同じ髪型にすれば童貞脱出が可能らしい」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…オイ、え、みんな何でそんな目で俺を見るの」
「…この中で童貞脱出した人挙手」
「俺中1の時にもう済んでます」
「俺これから源田と口聞かないから」
「はぁ!? ちょっ佐久間ごめん俺が下なるから口聞いて!!」
「こんなところで佐久源宣言すんなあぁああぁぁあ!!!」
「鬼道さんは経験済みですか?」
「………、ない」
「ちょ、鬼道さん今の間なんですか」
思春期の男子的事情
「てか佐久間、それで髪形変えたかったんだな」
「そんなジンクスが広まってるのにこのままでいられない」
「ちなみにそれは誰に聞いた?」
「? 成神」
「「「(10割方嘘だ佐久間!!!!!!)」」」
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