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   彼女は好きを嫌いと紡ぐ




「私はお前が嫌いだ」



彼女は僕にそう告げる。深海の蒼のような瞳。俺を見ているのに、あの瞳には僕なんか映っていない。僕は好きだよ、と告げれば、顔色を変えることなく、ただ皮肉そうに笑う。何をふざけたことを、と。カツカツと、彼女は僕に歩み寄る。触れる手。君の手は冷たすぎる。



「自分勝手な行動をしているお前が、何故一番お父様に気に入られる。私はあの日からずっと、お父様に尽くしてきた。お父様の隣にいた。なのに…なのにお父様は、その隣にいるお前に声をかける。何故…何故ッ」


「…僕は、君のことが好きだよ」


「黙れ!私はお前が大嫌いだ!!」


「じゃぁ殴れば良い。なんで殴らないの?」



その、僕の頬に触れている手を握り締めて、今触れている僕の頬を殴れば良い。彼女の手は、冷たい。



「…ウルビダの手は、冷たいね」


「…黙、れ」


「ねぇ知ってる? 手が冷たい人は、心があったかいんだよ」


「っっ」


「ウルビダ、父さんによく言われてたよね」



ウルビダの手に、僕の手を乗せてみる。彼女の手がだんだん、頬から首へ、首から胸へ、降りていく。彼女の目からは、今にも溢れそうな、涙。



「…私はお前が、嫌いだ」


「…違う、愛されてるのは僕じゃない」



愛されているのは、僕じゃなくて、『ボク』だ。
僕という『名』だ。
僕の名しか、愛さない。ウルビダもそのことを知っているのに。



「…私は、お前が」


「僕は君のことが、好きだよ」


「…っグラ、ン…ヒロト!」



零れ落ちる涙。透明で、透き通る。誰もいない冷たい廊下を濡らしていく。もう一度言う、彼女の傍で。


「僕は君のことが好きだよ」


「…私は、嫌いだ…ッ」


「ということは、僕のこと大好きなんだよね?」


「な、にを…馬鹿げた事を…」


言い終わらないうちに、彼女の形の良い唇を塞ぐ。彼女はいつも抵抗しない。細い腰を引き寄せて、深く。彼女が僕の手を握る。冷たい。



「…だって君なら、本当に嫌いな奴に嫌いなんか告げないで、その場を離れるでしょう?」


「…黙れ、」


「黙ったら嫌なくせに」


「…もう、知らないッ」



彼女の体を受け止めて、きれいな青い髪を梳く。こめかみ部分の白い髪を掴めば、今度はウルビダから唇を重ねてきた。




彼女は好きを嫌いと紡ぐ




(彼女は壊れるか壊れないかの境目を生きてるから)
(僕が受け止めてあげないと、)





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