14
二人の間に重苦しい空気が流れている中、空はそれを無表情で見つめながら、今日の夕飯を考えていた。
(やっぱ鯖の味噌煮かな…いや、でもなぁ)
空が鯖の味噌煮と麻婆豆腐とで頭を悩ませてる中、やっと犬猿の仲である兄弟に動きがあった。
「……遊二」
それは、いつも威圧的な九音からは信じられないほど、柔らかい声だった。
「俺はお前のことを、恥だと思ったことはないぞ。駄目な弟だとは思っているが。何だか…お前相手だと、うまく言葉に出来んな…でも、一つだけ言っておく。ここへ来たのは、俺の本能がそうさせたんだ」
「………」
そう自嘲気味に軽く笑った九音に、遊二は目を見開く。
溜まってた鬱憤を晴らしてやりたい気持ちが、九音の言葉でスッと消えてしまい、遊二は言葉に詰まった。
何だかむず痒い気持ちになってきた遊二は、頭を乱暴にかきむしるとポケットの中に忍ばせておいた小さな箱を取り出した。
水色の紙で包装され、黄色いリボンがかかっているその箱に渋い顔をした遊二はお面の男に視線を向けた。
「……」
男は遊二の言わんとしていることがわかったのか、ただ一度、頷いた。
(まじかよ…)
遊二は恥ずかしさで逃げ出したい気持ちに耐え、乙女が好きな人に初めて告白するかのように九音を呼んだ。
「く、九音っ……!」
少し様子のおかしい遊二に、首を傾げる九音。
「なんだ」とまたいつも通りの威圧的な声色で九音が問うと、遊二は俯いたまま、ザッと箱を差し出した。
決して、ラブレターではない。
「なんだこれは」
反射的にそれを受けとった九音は、箱を見つめながら未だに顔をあげない遊二に尋ねた。
「それは………」
空と九音がやってくる少し前のこと―――
「それはどうかなー」
携帯を弄くりながらニヤニヤと笑う十夜に、遊二は眉をしかめる。
そんな遊二に、十夜は携帯を閉じるとある提案を持ち掛けた。
「じゃあ、賭けしない?」
「賭け?」
「そう。もし、九音が遊二を助けに来たら…」
十夜は言いながら、後ろポケットからリボンのかけられた箱を取り出した。
「これ、九音に渡して?」
「なんだそれ」
「んー、九音への誕生日プレゼント☆」
「ゲッ、誰がそんなもん――」
「あぁそう。遊二は九音が来るかも知れないって思ってるんだねー?」
「………」
遊二は口をへの字に曲げ暫く考えると、
「わかった。それで俺が勝った時の見返りはなんだ」
「んじゃ、一日遊二の言うこと何でも聞くよ――空っちが」
勝手に賭けの代償に使われた空だった。
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