13 呆れたように溜め息をつく九音に、空は「いいじゃねぇかよ」と肩を竦めた。 「まぁいい。兎に角、先を急ぐぞ。この辺りは物騒みたいだからな」 「わかった」 今度は絡まれることなく指定された倉庫へとやって来た九音と空。 少し空いたシャッターの隙間から身を屈めて中へと入ると、中は薄暗くどんよりとした湿った空気が漂っていた。 「遊二…」 内部の中央で、布団にくるまれた遊二を発見した九音は眉を潜めた。 いくら喧嘩が強い遊二でも、あれじゃ抵抗出来まい。 九音は隣に佇む人物に目を向ける。 「望み通り来てやったぞ。遊二を解放してもらおうか」 パーティー用のふざけたお面をつけた体格的に男だと思わせる人物は、九音の言葉に無言で遊二の拘束を解き始めた。 「……」 遊二は何か言いたそうに口を開いたが、お面の男に首を振られ黙りこむ。 「約束は守った。鴉間九音、こっちに来てもらおうか」 初めて発せられた男の声は、ヘリウムガスを吸ってるようでかなり高音だった。 こんな緊迫した状況でなければ、かなりのお祭り野郎である。 「あぁ、わかっている」 九音は男の指示通り、歩きだした。 「……何で来やがった」 拘束を解かれた遊二はのろのろと立ち上がると、顔を伏せたまま呟いた。 足を止めて遊二に顔を向ける九音。 「さぁな…」 「はぐらかしてんじゃねぇよ!」 「………」 怒気を孕んだ遊二の言葉に、九音は若干眉を潜めた。 無言の九音に、遊二は苛々した様子でもう一度舌打ちを鳴らす。 「いい子ちゃん気取りも大概にしろよ。虫酸が走るぜ」 「何が言いたい」 罵声を浴びせてくる遊二に、九音は落ち着き払った声色で問い質す。 その冷静ささえも、遊二は気に食わなかった。 体にまとわりついていた縄を乱暴に投げ捨てると、ツカツカと九音に近付き、胸ぐらを掴む。 「兄貴面すんなって言ってんだよ。ここに来たのだって、本当は俺のためなんかじゃねぇ。自分のためだ。弟を救った“イイ”兄貴として、脚光を浴びてぇだけだろが」 「………」 「フンッ、だんまりかよ。テメェは都合が悪くなるといつもそうだよな。」 遊二はそう言って鼻で笑うと、九音から手を離した。 . [*←][→#] [戻る] |