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恋桜―こいざくら―

 オレ…今、お、男にキスされてる…。
 しかも、大人なキスじゃねぇかよぉーっ! 

  どう考えても、空の思考を混乱させるには十分な、このハプニングを何とか脱しようと、残った力を振り絞って鳩尾に思いっきり拳を突き立てた。 

  ドゥフッ… 

  うっ!…と低い呻き声を上げ、唇を離した瞬間を見逃す事なく、空は拘束していた腕の中から何とか逃げ出すことが出来た。 
  空のファーストキスを奪った、憎き相手から…。  

「…っ!何するんですかっ、先輩!!」 

  今度こそしっかり覚醒したらしい相手は、殴られた鳩尾を押さえ、息を乱しながら空に視線を向ける。   
その視線を浴びた空だって負けてはいられない。  

 「何するんですかだ?それは、こっちの台詞だっつうの!」 

  自分が男の顔に見とれていたこと自体ショックだというのに、その男にファーストキスを奪われてしまったとなれば平常心でなどいられない。 
  ゴシゴシと、今し方奪われてしっとりと濡れた唇を制服の袖で拭いながら、空は怒鳴り散らしていた。  

「…あ、あれ?相田先輩?こんなとこで何してるんですか?」 

  ハッキリと空の存在を認識したその相手は、なぜか噛み合わない言葉を、とても素っ頓狂な顔で紡ぎ出した。   

「この期に及んで、まだオレをパニクらせるつもりかよっ!」 

  空を間違いなく“相田先輩”と呼んだその後輩らしい人物は、空がどんなに喚き散らそうとも、落ち着き払っていて、動揺の一つも見せなかった。 
  ただ、髪に隠れた耳が熱く熱を持ち火照っていた事を空は気付いていない。   

「っうか!誰だか知んねぇけど、あんたに“相田先輩”だなんて呼ばれる筋合いはねぇんだよっ!」 

  余程ショックが大きかったのか、空は腰を抜かしたまま、ズルズルと後退しつつ啖呵を切る。 
  そんな空を愛おし気な瞳で見つめている事など、到底気付けやしなかった。  

「す、すみません。オレ…」 

  シュンと肩を落として項垂れる後輩らしき人物は、すみません…と何度も謝って詫びる。  


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あきゅろす。
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