恋桜―こいざくら―
4<+え>
長い睫毛を重たそうに持ち上げ、薄っすらと瞳を開くと、まだ完全に覚醒してはいなかったのか、薄ぼんやりとした意識の中で口走った。
「せんぱ…い」
まぁ、確かに空は先輩ではあるが、どう考えても見知らぬ後輩に先輩と呼ばれる関係はない。
しかし、『先輩』と呼ぶ人物は、空を思いっきり引き寄せて、力強く抱きしめたのだ。
「なっ!!」
突然のことに言葉を上手く発することが出来ず、空は掻き抱く腕の中で何とか逃れようともがく。 だが、抜け出そうとすればするほど華奢な空は、その胸の中に引きずり込まれる。
「先輩…どうしてオレから逃げようとするんですか…」
「んなの決まってんだろ!男に抱きこまれて喜べるわけねぇじゃん!」
「なぜですか…。あんなにオレ達は愛し合ったはずなのに」
はい?愛し合った?はぁ〜ん、なるほどな。こいつ振られやがったな?
どこぞの可愛いねぇちゃんとでもお付き合いしてたんだ…と、勘違いされて抱き込まれたことを理解した。
したは良いが、やはりこのままいつまでも男に抱かれているのは有り得ない。
取り合えず、どんな顔をして自分を愛しい先輩と間違っているのか覗いてやろうと、上を向いた瞬間…。
クチュ…
空の細い顎に、嫌味なほどスラリと長い指がかかったと思った瞬間に、空のファーストキスはとんでもない相手に奪われていた。
「んーっ!んー!」
フレンチキスならまだしも…『まだしも』という例えは、空にとって見れば不適切なのだが、それを上回るディープな大人のキスをファーストキスで思い切りされてしまった空は、クラクラと目眩を起こす。
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