恋桜―こいざくら―
3
4月いっぱいは、5時限授業のこの唐橋高等学校で、英の策略にまんまとハマりゴミ捨てをしていたと言う事は、すでに午後2時を廻っている事には違いない。
太陽が頂点から、2時間分傾いたその絶妙な角度が、空と目の前で携帯を握ったまま寝ている人物を引き合わせたのだ。
「見たことねぇ顔だな…」
新入生か?…一応気を使って小声で囁きながら、未だ空の存在に気付く事なく寝ている携帯の主に近づいた。
へぇ…随分調った顔してんだ。
顎のラインがとてもシャープで、それぞれの顔のパーツが在るべき場所をきちんと理解して、配置されているその見るからに男前な顔をマジマジと覗いていた。
「うぇっ!!」
なっ、何やってんだ?オレ…。
自分の思いがけない行動に動揺を隠せず、思わず仰け反る。
まさか、自分が『同性の顔に見とれていた』だなんで…、信じられない、認めたくないと、今自分が取った行動を掻き消すように、目眩を引き起こすほど勢いよく頭を振った。
ただ、そんな空でさえも一つだけ気になることを発見してしまったのだ。
その男前な携帯の主の頬に、影を落とすほど長い睫毛が、確かに涙で濡れていたことだ。
こいつ…泣いてたのか?
一度は退いた位置から、もう一度その睫毛を確認しようと、四つん這いになってそっと近づく。
「…やっぱり」
思わずポロッと声を音に出してしまった事に、自分自身が驚きハッとする。 口元を両手で押さえ、恐る恐る様子を伺うが、空の努力は無駄になってしまったようだ。
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