恋桜―こいざくら―
2
「くそっ!誰かわざとやってやがんな?」
胸くそ悪ぃ…とツバを吐き捨て、本当に誰かがわざとやっているのなら、思いっきりぶん殴ってやろう…とさえ思いながら、足音を極力抑えて茂みに近付く。
茂みの層が薄くなっている場所を見つけだすと、目の前の茂みに手を掛ける前に軽く覗き込んだ。
「あっ!やっぱ誰かいた」
足元が僅かに見えた事で、一気に身体中の血が頭の天辺まで上る。
「てめぇっ!!……」
怒鳴り付けてやろうと、勢い勇んで茂みをわけ入ったまでは良かったが…、空の目に飛び込んで来た対象人物を前にして、呆気なく言葉を無くしてしまった。
何てことはない。
力強く握り込まれた拳を、簡単に弛めさせたその相手は、悠々と立ちハラハラと淡いピンクの花弁を春風に舞わせている、大きな桜の古木に背を預けて、気持ち良さそうに寝ていたのだから。
本来、気性が穏やかとは言い難い空から、威勢を根こそぎ奪ったその人の手元には、開きっぱなしのまま握られた携帯電話があった。
「…もしかして……アレ?」
人を散々おちょくった原因物質の正体だと思われるその携帯電話。
敢えて立ち位置を焼却炉側に移し、本当に携帯が犯人なのかを確認する、意外にも律儀な空だった。
キラッ…
「やっぱアレか…」
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