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恋桜―こいざくら―

  貴文が放った言葉と、自分が涙を掬われていたという事実の両方に唖然とする。 
 
  有り得ない。オレが泣くなんて、絶対ありえねぇ! しかも、オレがヤキモチだって? くぁ〜っ!ありえねぇ!! 
 
  とは言ってみても、空の大きな瞳からは止めどなく涙が溢れ続ける。
  桜色に染まった頬を流れ落ちる液体は、紛れも泣く空が流した涙だった。   
  動揺を隠しきれず、涙を溢れさせる空の頬を両手で優しく包み込む貴文の吐息が、空の鼻先を掠めるほど近くに貴文の顔があることにやっと気付く。   
 
「なっ!」  
「先輩…嬉しいですよ、オレ。先輩がオレを想って泣いてくれてるってこと・・・」   
「ちがっ」   
「いや、違わない。オレが誰を思って、誰のために涙を流したのが、ずっと気にしてくれてたんでしょ?」   
 
  図星を付かれた時と言うのは言葉が出ないんだな… などと、空は貴文に素直に白旗を揚げて大人しく頷いた。 
  コクリと小さく頷く空の顎に指を添え、自分の視線と真っ直ぐに絡ませる。   
 
「あの時は、先輩の夢を見てたんです。すでにオレの恋人だった先輩が、『生まれ変わったら一緒になろうな』と言って、オレから去って行こうとしたから…」 
 
  先走った夢でしたけどね。それでオレ泣いちゃいました… ふわっと綿菓子のように甘くて柔らかな笑みを向ける貴文を、空は胸が締め付けられるような苦しさの中で見つめ返した。   
 
「子供(ガキ)か…」 
 
  弱々しく、何とか吐き出した憎まれ口は、同時に重ねられた貴文の唇で口内に吸い込まれた。 
 
 
 
  切なくて、恋しい…
  恋しくて、愛おしい…  
 


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