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恋桜―こいざくら―
21<+え>

「へぇ〜。っで?」 
 
  無意識なのだろう。
  
その先を促すように、貴文の膝に手を置き小首を傾げながら、貴文の声に耳を傾けるように近づく空に、小さく苦笑を漏らしながら貴文は続けた。   




 
「あの桜が記念樹として植えられた若木の頃、どうしても周りに認めてもらえなかった恋人同士が、輪廻を信じて別れたんです。生まれ変わった時は必ず一緒になろう…って」   
「それって……やっぱ男同士?」   
「はい。もちろんです」 
 
  もちろんって…
  自分の気持ちを棚に上げ、堂々と告げる貴文を訝しげに見つめた空。
  そんな空の視線に気付かぬふりで貴文は次の言葉をまた静かに紡ぎ出す。   
 
「当初は、“縁切りの桜”として称されていたようなんですが…、いつの間にか同姓同士の縁結びの桜として称えられるようになったらしいです」   
「あっ…」 
 
  だとすれば、オレと貴文がこうなったのも…『恋桜』の所為?
  空が突然思考を巡らせ、思いにふけった様を噴出しそうな笑いに堪えて見つめる。
  目の前でコロコロと表情を変る想い人を愛しさが溢れそうなほどに見つめるその眼差しは、貴文が空を思い続けた2年間と言う時間の重みを含んでいた。   
 
「でも…、ただあの桜に願うとか、あの桜の元で告白をするってだけでは結ばれないんです」   
「ほえっ?そうなの?」   

「はい。…どんなに待ち続けてでも、あの桜の元で偶然に出会わなければ想いは通じないらしいです。しかも…桜が咲いている僅かな時にだけ…。だからオレ、入学してから毎日あの桜の元で…」 
 
  先輩を待ち続けました…
  切なく細められた貴文の瞳を思わず見上げた空は、自分を想って『恋桜』に縋った貴文の想いを改めて感じ取った。   
『恋桜の伝説』を聞き、遅咲きの桜の古木が引き合わせたのかと、一時は想った空だったが、自分に偶然を求めて通い続けた貴文の熱い想い。 
  断固として拒否しつつも、簡単に落ちてしまっていた自分の貴文への想い。     
  それが『恋桜』のもたらした奇跡なのだろう……    
 

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