恋桜―こいざくら―
20
「ばっ、馬鹿やろう!んな訳ねぇだろ!」
素直じゃないですね… 呆れるように囁きながらも、嬉しさをめいっぱい含んだ弾むような声音に、自分が先程のような激しいキスを望んでいた事に気付き、カァッっと耳まで赤くなってしまった。
熱くて熱くて堪らない頬を両手で押さえ込みながら、空は力の入らない腰を引きずって、久し振りに貴文から離れた。
「先輩?って知ってますか?」
「『恋桜の伝説』?聞いたことねぇ…」
先程までの自分の行動が、人生最大の失態だと落ち込みながらも、認めざるを得ない貴文への想いの存在とに葛藤していた時に、突然貴文から告げられた『恋桜の伝説』…。
空がこの学校に入って、まる2年経っていたが、一度も耳にすることの無かった話だった。
「オレ…それに賭けてたんです」
「……」
室外機に背を預け、二人並んで座っていた足元に、ふわりと舞い降りた一枚の花弁を掬い上げて見つめる貴文の瞳が、揺らめく。
「オレは、先輩を追ってこの学校に入ったんです。先輩をこの手で捕まえることが出来なくても良い…それでも良いから、先輩を見ていたかった…」
「貴文…」
「ここを受験することに決まって間も無く、兄貴の友達に教えてもらったんです『恋桜の伝説』の話…。」
どんな? 思わず身を乗り出し、好奇心旺盛な空の瞳が輝き出す。 そんな空の可愛らしい姿に一瞬視線を移し、そしてまた掌の花弁を見つめた。
「オレ達が出会った桜の木…分かりますよね?」
「あぁ、焼却炉の脇の古木だろ?」
「そうです。あの桜が通称『恋桜』って言うんです」
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