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恋桜―こいざくら―
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  自然と声のトーンが低くなる。   
 
「お前…男だろ?オレも男だ…」   
「…」   
「オレをからかうのは止めろ」 
 
  手の甲に、ピッタリと張り付いた桜の花弁に視線を落としたまま、空は地を這うような低く、怒りを含めた声音で言う。 
  実際、貴文の瞳を直視する自信が無い分、虚勢を張らざるを得なかったのだ。   
 
「先輩…、オレ内藤貴文って言います」   
「んなの、分かってる…。分かってるけど…・・・、今はそんな話してんじゃねぇだろっ!!馬鹿にすんなっ!!」 
 
  全然読めない貴文の行動と、噛み合わない会話に、出来るだけ気持ちを落ち着かせて会話を進め、貴文を諭そうとしていた努力が、意とも簡単にぶち壊される。 
  苛立ちが抑えきれず、声を荒げ貴文の襟元を掴み上げた。   
 
「ざけんな!んなこと話してんじゃねぇよ!」 
 
  思わず、貴文の瞳とストレートに向かい合ってしまった視線。   
 
「…っ!」   
「オレを名前で呼んでください。“貴文”って、そう呼んでください…」 
 
  前髪から覗く、空の視線と向き合ったその視線は、先程から変わらず真っ直ぐに空へ向けられ、春の日差しを受け煌いていただけではなく、優しく細められていたのだ。 
 
  ふざけんな… 
 
  貴文の視線に、優しく象られた瞳と口元に絆され、弱々しく紡がれた空の言葉が空を切る…。 
  怒りの所為で身体の体温が上昇してしまったのか、それとも…。  この真っ直ぐに自分自身に向かってくる目の前の男の視線の所為なのか。 
  空には急激に変化していく自分自身を掴めず、コントロールさえ制御不能にさせる貴文を睨み付けるだけで精一杯だった。    
 

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