恋桜―こいざくら―
14
しかし、
「すみません」
空の手の甲に重ねた手はやはり離れ難かったが、大人しく貴文は空の子供染みたプライドに付き合った。
ゆっくりと時間を掛けて離していく…。
「「…あっ」」
重ねられた手を離した瞬間、二人の目に飛び込んだモノ…。
思わず、『運命』だと一人確信する貴文の口元には微かな笑みが作られていた。
二人の重ねられた手の間にあったのは、一枚の桜の花弁だった。
二人の手に挟まれたことで、ピッタリと空の手の甲に張り付き、しっかりと自らを主張しているようだった。
ほのかに淡いピンク色のそれに、二人の視線は注がれる。
何故だか、その花弁が熱を帯びているように熱く感じ、先程までの恥ずかしさも、動揺もみな掻き消すように空へ伝える。
「あの時の花弁…」
思わず空が呟く。
貴文のキスに抗う術を無くし、身動き一つ出来なかったあの時に視界に滑り込んできた一片の桜の花弁だと確信した。
「…内藤。どういうつもりだよ」
空の回りを見てみれば、男子校だけあって男同士のカップルが嫌と言うほど目に付くが、それでも自分の恋愛対象は“女”と、頑なに思っていた空だけに、自分のファースト、セカンドのキスを対象外の“男”に奪われるという、予想外の事態に動揺する空の鼓動。
しかし、動揺を見透かされるのは空にとって背を向ける、尻尾を巻いて逃げる等と同じことだった。
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