恋桜―こいざくら―
12
「先輩…」
甘く痺れを起こすような、低い貴文の声で、空の背筋には軽い電流が走る。
ゾクリと身体を震わせ、自分の身体を例えようのない状態にした声の主へ視線を移した。
前髪に隠れる貴文の瞳は、真っ直ぐに空へ向けられ、ゆらゆらと春の日差しを受け止めて煌いていた。
その瞳から逸らすことのできない視線の意味を探ろうと、空は必死に思考を働かせる。
が…、射抜かれてしまった空が思考を巡らせるなど・・・出来ない状態になっていた。
絡め取られた視線を外せずに、僅かな時間だが空は貴文の瞳に捕らわれていた。
「んっ…」
いつの間にか近づいていた貴文の顔は、あと数センチ程で触れてしまうほど近くにあるというのに、見るに耐える顔立ちだった。
すっと通った鼻梁、前髪の奥に揺らめく色素の薄い琥珀色の瞳、薄く形の良い唇。そして、ラインの綺麗な輪郭…。
どれも、自分の立場をわきまえているパーツが綺麗に整列している。
こんなに、綺麗な男が居るなんて…。
自分と同姓の目の前の男を、そう評してしまってから、空はハッ!として顔を背けようと身じろいだ。 だが、
「///っ!」
空の動きよりも早く、貴文の長い指先が頬を捉えた。
クチュッ…
一瞬にして淫靡な音を立て奪われた空の唇。
余りの事に、次に起こす行動さえ思いつかないほど、空の思考はフリーズしてしまった。
軽く、啄ばむ様に初々しいバードキス。慈しむ様な優しさを含みながら、何度も空の唇を奪う。
あの時のファーストキスは少し荒めの激しさを伴なっていたのに…。
つい、あの桜の木下で奪われたファーストキスを思い出してしまった。
「ん…」
思わず、あの熱さを思い出してしまったからだろうか、空の唇からは微かな吐息交じりの喘ぎが洩れる。
(何やってんだ…オレ…)
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