恋桜―こいざくら―
11
ハラハラと、先程からやけに降り注ぐ桜の花弁をうざったく払いのける空の肩に、また一片の花弁が舞い落ちる。
その花弁の舞い降りた肩は、貴文寄りの肩ではなく奥の肩だった。
しかし、その一片の花弁にだけ気づかない空の行動に、貴文の瞳が細められる。
クスッ…
微かに笑ったのだが、空の耳には届いてしまったらしい。
キッと睨みを効かせて振り向く空ではあったが、なぜか先程からほんのりと頬を染め上げ、耳から首筋に掛けてまで頬の色を流して滲ませている。
当の空でさえ、なぜ自分がこの状況で頬を染めなければならないのかと戸惑っているのだから、貴文が戸惑うのは当たり前だ。
睨みつけたつもりの空の瞳は、薄く涙の幕を張って潤み、ほんのりと染め上げた桜色の頬はしっとりと滑らかそうな肌を称え、プックリと柔らかそうな唇は少し赤めのチェリーピンクで彩られていた。
そんな空を見て、周りが情欲を掻き立てられない訳がない。
仕草は荒っぽくて、いかにも男の子っぽい空ではあったが、この容姿がいけなかった。
今までに、何度絡まれたことだろう。 空にしてみれば、訳の分からない因縁を付けられて絡まれた、位にしか思ってなくても、含まれる意味は全然食い違っていた。
周りが、どんなに情欲をそそられているのか。空が、無意識に起こす行動が、どれだけの男をトイレへといざなった事か。
自覚の全然ない空が振りまく笑顔と、空から放たれる芳香が男たちを狂わしていたのだ。
そんな空を目の前にした貴文だって、例外ではなかった。
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