恋桜―こいざくら―
10
「……」
「……な、内藤、お前サボりかよ…授業受けろ」
静かな屋上での二人の間に、例えようのない沈黙が流れ、息苦しさを感じてしまった『間』を嫌う空が、先に言葉を掛ける。
先程から、室外機の裏に佇む二人の周りには、校舎裏に悠々と咲き誇る桜の花弁が春風で吹き上げられ、何枚も降り注いでいた。
まるで、これから先の二人を演出するかのように……。
「はい。サボりました…って、先輩もでしょ?」
「わ、悪ぃかよっ」
「別に悪くないですよ。ってことは…オレも悪くないですよね」
「っ!」
相手のサボりを利用して何とか責め上げ、早くここから追い返そうとした空だったが、まんまと墓穴を掘りぐうの音も出ずに口を噤む。
勘弁してくれ…オレ、何だかこいつ目の前にすると調子狂う…
ずるずると、室外機に背を預けながらしゃがみ込む空の傍らに、貴文は程よい間隔をあけて静かに座った。
密着するわけでもなく、だからと言って大袈裟に遠ざけて座るでもなく、程よい二人の間の距離に胸を撫で下ろす空。
それこそが貴文の意図するものだとも気付かずに…。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!