恋桜―こいざくら―
6
「で?どこのどなた?」
「な、何のことだよ英」
「ん?その『恋』のお相手だよ」
「だ、だから!恋も何もしてねぇっての!」
なら別にいいんだけどな…と、溜息交じりの英を横目に、空は「あっ、オレ先生に呼ばれてたんだっけ」と、分かりやすいみえすいた嘘を付いて、足早に教室を飛び出していった。 英の質問と、自分自身の気持ちとがリンクしてしまった事に気付いてしまったから。
これって、英が言ってた『恋』なのか?
恋愛をまだ一度もしたことのない空にとって、英から言われるまでただのイライラ、むかつき位にしか思っていなかった。 空は、恋を知らずにいた。
しかし、認めるわけにはいかなかったのだ。なぜならもちろんそれは相手が『男』だから。
恋愛は男女がするものと、枠を作っていた空にとっては決して認めてはならないことだった。
男子校に入ったことで、少しばかり器が大きくなったとは言え、自分の恋のお相手はやはり女性でなければならないと、どこかお堅い脳みそが生き残っていたから。
しかしながら、一度『恋』だと自覚をさせられてしまうと、絆され易い所もある空にとって“内藤貴文”という人間の存在が急に空の中で猛威を振るい始める。
「違う、これは『恋』なんかじゃねぇ!ぜってぇ違うんだ!」
傾きかける気持ちとは裏腹に、空の脳みそがどこまでも拒否を続ける為、口走るのはやっぱり否定の言葉…。
先生に呼ばれていたと言うのは、口から出任せ、英から離れるための単なる口実だった空は、行く宛てもないまま結局屋上へ辿りついていた。
広い屋上にも拘らず、空が腰を下ろしたのは室外機がいくつか並ぶ際奥の影。
膝を抱え、自分の気持ちと考えのギャップに、「う〜ん、う〜ん」と呻きながら葛藤していた。
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