恋桜―こいざくら―
3
結局、一晩中“内藤貴文”の所為で、うんうん悩み、僅かに夢の中に引きずり込まれても、なぜか登場するのは“内藤貴文”で…。ドアップで空にキスを求めたりと、散々な一晩を過ごし一睡も出来なかった。
マジでむかつく…。
授業は、結局睡魔に襲われあえなくギブアップ。
さすがに午後まではもたないと、何とか仮病を使って空はフラフラの身体を引きづりながら保健室へ来ていた。
疑いの眼差しで見つめる担任の視線を背に受けながら。
「ぜってぇ、今は爆睡してやるっ」
幸いにも、保健医が外出中だった事をいい事に、さっさと仕切りのカーテンを捲ってベッドにダイブする。
「内藤貴文のやろ…う…」
一晩中眠りから遠ざけ続けた、憎き相手の名前を呟きながら、空は深い眠りへと落ちて行った。 一つも睡眠を邪魔する忌まわしい夢を見ることも無く。
「…ら。…そら」
微かに届く自分の名を呼ぶ声に、空は眠りの底からやっとの思いで這い上がる。
「…ん、あぁ…」
「空?大丈夫か?」
いまだ霞む視界が、ハッキリと物の輪郭を捉え始めると、そこには心配そうに覗き込む英の顔があった。
「うわぁぁっ」
一瞬でも、“内藤貴文”に見えたことへの驚きの叫びだったのだが…。
「何だよ、空。人がせっかく心配して様子を見に来てやったってのに…」
「わ、悪ぃ…」
拗ねてそっぽを向く英の頭を慌ててクシャクシャと撫で、空は機嫌を伺う。
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