同盟-5[動物組]
「でね、その時猫が……」
漏れ聞こえる言葉は、グレイの好みに合う味付けがされているようだった。
グレイはこちらに背を向けているため、表情は伺えない。
だが口元を抑えて震えている姿は、可愛さに身悶えしている証拠だろう。
(かわいい……ッ)
彼の脳内では、アリスと動物たちが楽しく戯れている図が出来上がっていた。
(グレイ……お前もか)
こういう状態のグレイは思考がただ漏れだ。
だが、こんな時は読めなくていいと思う。
アリスの思考はまだ続いていた。
―――――――
「ぴっ! ア、アリス……?」
「……」
怯えるネズミを尻目に、アリスは立ち上がる。
そして、ゆっくりとした足取りで銃撃戦の中心へ向かって歩き出した。
ベッドの影から、慌ててネズミが叫ぶ。
「アリスっ、ダメだよ! 危ないよっ!」
ネズミが必死に止めても、アリスの足は止まらなかった。
本当はしがみついても止めたいだろうが、怖くて物陰から出られないようだ。
ネズミなりの精一杯の制止も虚しく、アリスはずんずん進む。
一方銃撃戦の中心地では、三つ巴の激しい攻防が展開していた。
「にゃははは! こっちだよお二人さん!」
「ちょこまかと……! 大人しく殺されなさい!」
「当たんねえよ! てめえが死になっ!」
ウサギと猫が罵詈雑言と共に銃弾を撃ち合っている。
部屋に轟く、耳障りな破裂音。
これが動物の姿だったらかわいげが有っただろうが、残念ながら彼らはヒトの姿をしていた。
その背後に、華奢な影が映る。
「アリス!」
まず声を上げたのは白ウサギ。
彼にとっては正面から歩いてくるアリスに気付くと、ぱぁっと表情を綻ばせた。
そして頬を染めて言い放つ。
「待っていて下さい! すぐにこの部屋を殺菌消毒しますからね!」
「ふざけたことぬかしてんじゃねえぞ、イカレウサギ!
……待ってな、アリス。 すぐにこの変態を、二度とあんたの目に付かない場所に送ってやるぜ」
次にアリスへ声を掛けたのは三月ウサギだった。
アリスへの言葉は柔らかいが、白ウサギに殺気を送ることは忘れない。
続けて、いつの間にかウサギたちから離れていたチェシャ猫が近付いてきた。
「ねえ、アリス。こんな所から出て、俺と別の場所に行こうよ」
背後から肩に顎を乗せて、アリスを覗き込んでいる。撃ち合いに飽きてしまったらしい。
いつもながら気まぐれだ。
三者三様の態度を受け取ったアリスだが、先ほどからずっと無言を貫いている。
アリスの様子にいち早く気が付いたチェシャ猫は、アリスの隣に移動して更に顔を覗き込んだ。
「……」
「アリス? どうし…ぎにゃーーーーっ!!!」
チェシャ猫の悲鳴が、部屋に響き渡った。
続く
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