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「すまんすまん。あんたが一番信用できるからっていうのが本当の理由だよ。うん、これほんとの本心。て、こんな恥ずかしい事を乙女の口から言わせるな、キャッ」

「棒読みも甚だしいね」


くくっ、とすかさず喉許で笑い返した彼女に少年は呆れているようでいて、わずかに目の奥を鋭くさせていた。


「…運命の可能性ね。使いようによっては森羅万象の理さえ崩壊させかねない最悪の因子だと思うんだけど、それ」

「ああ。だから勿論ジャッジしてくれていい。あんたのその目で」

「…………。」


一瞬、悩んだ。でも今この段階で悩むようなことではないと思い直した。


「じゃあ二者択一は後者に決定というわけだな。よろしく頼んだ」


…少しの間があく。


「………僕さ、すごく適当なノリでとてつもなく重いものを身も蓋も無く押しつけられた気がするんだけど」

「む、聞き捨てならんな。せめて託した、と言ってもらいたい」


冗談としか思えない内容だったが、とても冗談とは思えないような真面目くさった口ぶりだった。冗談やからかいを好む彼女だが、しかし嘘をついているところをこれまでに見たことがないのも確かだった。


「どういう人?その人」

「ああそうだ、肝心なことを言い忘れていたな」


さして悪びれる様子も見せることなく、猫らしい所作で頬をすりすりとこすり、ぺろりと舌をだす。
そんな仕種をしていると、本物の猫に見えてきてしまうものだから不思議な気分になる。


「私と同い年だから、あんたのいっこ下だ。名前は河合聖、煌和学園中等部の三年。会ってみれば分かることだが…かわいいぞ。いじらしくなる事この上ない」

「…かわいい?って名前の感じから男の子だよねその子。男なのにかわいいの」


猫は何かを思い出したのか、含むようにくつくつと笑いだし、満足げに目を細めた。よく分からない形容に少年は首を傾げる。


「ああ。あと特徴としては身長はやや高めだな。色白で目つきが悪い。愛想の欠片もなく人見知りがひどい」

「かわいい要素どこにもないよね」

「あとむっつりスケベって言ってみるといい。喜ぶから」

「それで喜ぶって…」


一体どういう人なの…と言わんばかりの訝しげな目線。
下手をしなくてもひどい心証しか与えないような言いぐさだったが、結局少年は冗談半分に受けとめたようだ。
カワイサトシ、と声に出さずに小さく唇を動かしてその名を脳裏に刻み込んだ。



――繋がった接点。
目に見えないその小さな点が『見守る』に留まらず、しんしんと降り積もる雪のように静かな悲しい運命ばかりを重ねていくことになることを、この時の二人はまだ知らない。




「ねえサード」

「何だファースト。やっぱり聞かなかったことにしたいのか?」


面白がるような言い方に、目線を外しながら「…違うよ」と呟いた少年の声はどことなく掠れていた。


「死ぬの、君」

「ん?らしーよ」


ひゅわ、と一陣の温い風が二人を凪いだ。またたく間に呟きは掻き消され、金色の髪がふわりと舞う。
ビル屋上に植えられた観葉植物の葉が数枚風に煽られ、白い月を背景に遥かな夜空へヒラヒラと舞いながら吸い込まれていった。



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