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3


「っぐ……」

「いいから、ぐ、以外に何か言えよ。めんっどくせーな」


「糞ガキ」が気に障ったのだろうか。裏を返したかのようにいきなり朔夜の口調が変わった。


(…やっと本性を出したわね、気違い野郎)


何の意味も成さない、下手をしなくとも逆効果な、しかしささやかな反撃に目角を立てる少年の滑稽さを見て、蛍子は目尻を緩めた。


しかし――例え概要であろうとシステムの漏洩だけは、それだけは忌避しなければならない。

耐えられるだろうか。
結果、この命が潰えるまで。

しかし耐え抜いたとしても――敵は否応なしに相手の記憶を抜き出すことができるのだ。殺したあとに、じっくりと。


強く噛み締めすぎた唇に赤いものが滲んできたとき、ふいに後方からけたたましい電子音が緊縛した空気にすべりこんできた。

朔夜がその音に反応してゆったりと立ち上がる。そして横たわる蛍子を跨いで音源である電話機へと歩み寄っていった。


「あ、沙凪さんから電話ですね。……ということは罠を潜り抜けたのか。あれを回避――?他に戦闘タイプの能力者でも付いているのか?それとも…」


ディスプレイを凝視しながら信じられないというように眉間をひそめ、忌々しげに舌打ちをしている。
蛍子はその二文字を耳にした瞬間、弾かれたように目を精一杯に見開き、声を出そうと喘いだ。


――沙凪。
間違いなく次に狙われるであろう大切な娘。
それは彼女にとって必ず守り通さなければならない存在であるのに。


(駄目…ここに戻ってきては駄目よ、沙凪…!)


蛍子は心の中で叫んだ。
身じろぐことすらままならないこの肉体から、出来うるものなら娘の元へと魂を飛ばしてでも、何とかして娘にこの危機を伝えたかった。

朔夜はむっつりと黙り込んで、つまらなそうに電話を見下ろしている。じっと固められたその目線の奥は、今どのような考えを巡らせているのだろうか。


――沙凪が家電に連絡を入れるのなんて珍しいことだった。それはきっと電話機の脇に置いたままである携帯が繋がらなかったからだ。

今日、自分が非番であることを沙凪は知っている。
つい数時間前に駆り出しがあったとはいえ、電話が繋がらない筈がないと確信している。
だから――きっと最速の手段を用いてここに向かうだろう。
優しい子だから。
沙凪。


やがて数十回に渡って鳴り続けていた長いコール音が止まる。
蛍子はぐったりと瞼を閉ざした。
もう、もう――
何もかもが手遅れなのだ――。


「あ、そうだ。あなたには別にやって貰いたい事ができました。例の情報は急いでないし……面白いものが見れそうだ」


そこにはくくくっ、と愉しげな笑いが含まれている。

ひたひたと足音を重ねて近寄ってきた朔夜の手が伸びてきて、再び蛍子の体に触れた。

そして――彼女の意識は、深淵へと堕ちていくように、果てのない底へと沈んでいった。




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あきゅろす。
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