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諸行無常の響きあり
諸行無常

彼は城から一歩も外へ出ようとしなかった。
世間が怖い。
恐ろしい、周囲の視線と期待で自身が押しつぶされるような感覚に陥るのだ。
何故自分はこんな風に生を受けてしまったのだろう。
何故自身の身体はこんなに細く、無力なのだろうか。

またそんな自身を無理矢理そとへ引き出そうとする。
来客は、全く知らない“彼”だった。








元就はそんな子供が眠る部屋の前へ導かれる。
こちらとしては荒れた世の中、暢気に子供の世話などしてる時間は無い。それが本心だった。
海を挟んで在る領土を支配する大名に頼まれたのだ。

「後の跡継ぎとなる息子を外へ出してくれ」
そんな一言だった。
初期はもちろんそんな言葉には応じなかった。
勿論、暇は無かったのだ。
何時、何処から敵襲が来るか予測がつかないのだから。

様々な条件を提示し、それをこなすことを契約の状とした。
こちらが突然赴いても常に臨戦態勢を作っておくこと。
自由に首を取ってもいいこと。

父親にとっては酷なことだろうが、こちらには関係ない。


その経過が現在だ。




自身は薄い障子戸の前へ立つように、と指示を出される。
向こう側には篭もっていると有名な“息子”が存在するのだ。

周囲の人間が戸を開く準備をするが気が散る為に彼らには退散してもらった。
無関係の人物は存在しなくて良い。


元就は障子の枠に手をかけ、躊躇う様子もなく左右に開く。
廊下には乾いた音が一瞬だけ響いた。




「・・・っ!?」

微かに息を飲む音が聞こえた。

部屋は薄暗く、殺風景。
直に後の大将となる人間の部屋としてはふさわしくないもの。

その中心で、肩を窄めながらびくりと身体を震わせる少年。
そんな要旨は、か細く、弱々しい。
まるで、儚げな少女だった。

元就は無言で部屋に足を踏み入れ後ろの障子戸を閉じる。
おそらく怖がっているのだろう。彼はこちらを振り向こうとしなかった。


「初対面となるな、長曾我部家次期大将弥三郎。」
びくんと身体を震わせる。


「いや・・・?姫若子と呼ぶべきか」

辛辣な言葉を吐き続けるしか方法はなさそうだった。
だがこの調子だと、永遠に振り向いてくれそうにない。

元就はあらかじめ用意されていた座布団に腰掛けるとなるべく優しく、柔らかな声音で呼びかける。


「貴様、我のことは存じているか?」
「・・・お父さんから聞いてる」

微かに声を発した。
興味は持っているようだ、上手く興味を引き出せればすべてはこちらの手の内なのだ。


「ならばこちらを向くが良い。決して危害は加えぬ」
しぶしぶと身体を半回転させる少年。

面倒だ。
兵を統括させることや、大名との講談よりも面倒だ。
子供なのだ。素直であることが最前というのに。

男としてはふさわしくない鮮やかな色の着物を纏い、銀髪の合間から目を覗かせた。
見る限り右目は幾重もの包帯で覆われている。
髪には花の形をあしらった美しい髪飾り。
それをさらに際立てる銀髪。

少女と見間違う、美しく可愛らしい少女。そのものだった。


元就はようやく耳を傾けた、と内心で大きく溜め息をつく。
後に口を開いた。



「姫若子、貴様は話は好きか、」
少しだけ身体を乗り出したことがわかった。

「我は何年もの時を過ごしてきた。自身の見たもの、美しいもの。すべて現実ということを特別に話してやろう。どうだ?」

興味を持ったようだ。
小さく頷いた少年は、こちらの目を見ずとも耳はしっかりとこちらへ向けている。


作り話も多少交えながら元就は話を進めた。





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