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きっと、おそらく、それは。
きっと、おそらく、それは。
「・・・・・・・!」
「お前、もしかして・・・!」




私はここの領主である。
伊予河野軍の巫女として健在している私だ。
そして、隣の領土を持つあの人間。
世間は“西海の鬼”などと言って大層な目で見ているらしいが、そんな言葉とは裏腹な人間だ。

毎回こちらへ来てはむさくるしい空気を残したまま去っていく。
どうにかしてほしい。



そんな彼は海を挟んで向こう側に位置する安芸の大名と犬猿の仲だそうで。
常に顔を合わせる度に合戦レベルの乱闘となっているらしくて。
話によると、古くから尼子氏を倒し、中国を統一しているような智将なのだ。


まだ私はその大名の顔を見たことが無い。
一応近くの人間同士として挨拶はしたいものだが、どうも頑固で聞き入れようとしてくれないらしい。



すべては隣の人間、長曾我部元親による。
どうも納得がいかない私は、毎回毎回攻めるように問い続けるのだが効果なし。
一度でも顔を合わせておきたい。





そこで、思いついたのだ。
私だから出来ることなのかもしれないが、思いついた。
無謀な策かもしれないが。




「強行突破なんてどうでしょうか!こちらだけで彼のところへ行くんです!」

どうも乗り気でない部下はしぶしぶと片腕を上げる。
いくら止められたとしても止める気は無い。


「無謀だって!俺が薦めねえよそんなん!」
「知りませんよ!」
「聞けよ!」

焦ったようすの元親を無視し、私は渋々と手を下げる部下の手を上げさせる。


「ならば明日です!私、準備は・・・」
「鶴の字!」

大声を出されたのだ。

「何ですか・・・」
私は両手で耳を塞ぐと、わざとらしく彼を睨む。
彼の表情は確認できないが、声音で普段の調子でないことは目に見えて分かった。


「やめとけ、俺が止めるんだ。頼む、これだけは俺も賛同できねえ」
「貴方の賛同なんて希望してないです」

そんな彼に背を向け、私はつかつかと部下の間を通る。
わかる。
彼が力ずくでも私を安芸へ赴かせないことを。

だが、決めたことは実行したい。
いくら人に止められたとしても。

いくら訳ありの人間ということを聞いて、感じていたとしても。



「あんたの身に何かあっても遅いんだ!頼む、これだけは・・・」
「・・・貴方がそこまで言うなら・・・」

私は弓を構える。
部下は息を飲んでそんな光景を見守っていた。少しは咎めるくらいの覇気は持ってほしいものだ。
彼は舌打ちをし、自身の武器に手を添えた。


「・・・力ずくで突破させて貰います」

勝てるとは思わないが。
こちらは女であり、巫女なのだ。
いくら弓が無限に残ったとしても向こうは幼いころから幾千、幾万もの戦を経験してきた。

私のこれはただの挑発にすぎない。
彼が私に武器を奮うとは思えないのだ。


彼の大層な武器がカチャリと音を立てる。


「・・・鶴の字」
「何ですか」

一つだけ大きく溜め息を吐き、彼は言った。


「あんたの好きにしろ。ただ───」
「ただ?」




「あいつには気をつけろ───」



彼は無言で私と、慌て戸惑う部下を背後に去った。







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あきゅろす。
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