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永劫の命
永劫の命
「どうしたの?具合でも悪いの?」
「ううん、そんなことないです。気にしないでください」

曖昧に笑顔を作り、その場を誤魔化す。
とはいってもそんなえへらえへらと笑っている暇は無いのだ。


今日は私の命日らしい。












命日。
遠回しに言っているが、簡潔に言うと“死亡日”だ。
今まで何度か死ぬような体験はしたことがあるが、直に、リアルに伝わるとこれだけ実感の無いものなのだ。
何かが身体から抜けきったような感覚のまま、鞄へ荷物を詰める。


数週間前の帰り道。
道ばたで猫にかまっていると、彼らの飼い主と思われる男性が現れたのだ。
いつも通りの笑顔で会釈をし、その場から立ち上がる。
足下だけを見てその男性は着物を纏っていることがわかった。
夕暮れ時の、二人の影がはっきりとコンクリートに映る時刻。

今の時代で着物を着てる人なんて珍しいな、なんて思いながら私はふっと顔を上げる。


「驚くな」
彼は無感動に言葉を吐き捨て、一瞬だけ目を伏せる。
端から見ると、どこかの病人が抜け出してきたような容姿に見えるだろう。

顔全体に包帯を巻き、白い頭巾を被っていたのだ。
一部だけ覗いた箇所からは、二つの目玉が興味深くこちらを見据える。

私はあまりの驚きに言葉を無くした。
驚くな、と言われても驚いてしまうのは人間の本能なのだ。
しょうがない。


あたふたと焦っている私を見てそんな彼は覗いた瞳を細め微笑む。

私も救われたように無意識に笑みをこぼした。
ようやく身体の拘束が解かれたかのような感覚で自身は口を開いた。



「あの、この猫ちゃんたち貴方が飼ってらっしゃるんですか?」
話題を探った結果、それしか見つからない。
初対面なのだ。この男とは。

すると彼は再び目を細める。
猫はごろごろと足下を移動する。男は頷くと、包帯の中から声を発した。



「ぬしの齢は?」
突然年齢を聞かれたのだ。
私は度肝を抜かれた後に、体勢を整え直す。


「17ですね。えと・・・その・・・」
「そうか、ならある程度のことは理解しているな?」
「え・・・まぁ・・・」
訳が分からない。
何を言っているんだこの人は。

男は頭巾をゆっくりと揺らし、自らの名前を名乗った。
大谷吉継、それが彼の名前らしい。
刑部と呼べ、と指示される。

ある程度のことは理解している・・・?
何かよからぬことでも始めるのだろうか、どうにかそれには巻き込まれたくない。

私は鞄をかけ直すとふっと彼を見上げた。
・・・口元が隠れるだけで、一向に表情が読みとれない。
ここで猫に話題を転換したとしても、戻されるのがオチだろう。


じっとこちらの顔を窺うそんな彼は、目をゆっくりと伏せる。



「ならば、ぬしに伝えなければいけない事実がある」
「はぁ・・・」
私は曖昧に返事をしながらそんな彼の話へ耳を向けた。
初対面の人間に事実だの何だの言われても困るが、何か重要なことだとこちらの都合が悪い。
時間もあるわけだ。
少しくらいは時間を使ってもいいだろう。




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