[携帯モード] [URL送信]

焦燥

「怖がらなくて良いさ、音色に身を任せるがよい」

そう言って、タンスから取り出したピッコロ。
黒くて、小ぶり。フルートよりも小さい。

 ロンナは空に舞いそうなくらい綺麗な音色を出した。天使の羽根を背につけて羽ばたくくらいの。

 時に激しく情熱……。生の演奏を味わう機会などあまりなく、この貴重な機会だからこそ、新鮮味を身で感じることが出来るのだろう。

 身が、浮くような感覚がした。この不思議な感覚は何なんだと問いかける間もなく、ふわりと風船のように浮き上がっていた。

 異変を感じるたび、ロンナはピッコロを激しく吹く。体も意識も忘却の彼方にいきそうなくらい。

なのに、なのに……なんでこんな事が起きるのだろうか。

「ロンナ……?」

呼びかけた時には、もうピッコロを手放して、踊っていた。音の無い踊りで靴の音だけが響く。

「え……」

何を、しているの。
何が、起こっているの。

訳が分からない……。

「申し訳ない、ココロナ。呪縛の調べを吹いていたんだ」

「な……にそれっ」

ロンナは何を言っているのかしら……。

「あまり気にしないでくれ、呪縛はもう解けたから安心してくれ」

「呪縛……私に何があったのかしら」

「強い封印力がシンタイに宿っていたのさ」

ロンナが一息をつき、私の隣に座った。
ふふふと笑いながら誇らしそうにしている。

「君はさ、両親の跡継ぎに違いないね。この舞踏会に来るのはお偉いさん、どこから沸いたか分からない富豪か、ボンボンムスメとボンボンムスコしか有り得ないのさ」

庶民なんか居ないとロンナは付け加えた。

「うん、跡継ぎだよ。でもちょっと将来が不安」

「それくらいの年じゃあ、不安はつきものだね。私は呪縛解放士という仕事をしているさ」

「へえ……」

私は、ロンナの生い立ちに興味があるわけではないが、語られるともっと知りたくなってしまう。

「両親は生きているが、私が逃げた。政略結婚など願い下げだ。殺される覚悟で今は生きているよ」

「え……」

ロンナの表情はミラーボールの光でしか伺えない。強い瞳が心の強さを表しているのではないかと、思う。

「だから転々としなくちゃいけないのだよ、ココロナ」

「ロンナ……」

殺される覚悟で政略結婚から逃げたというのは……どういう事だろうか?

「私は両親からも逃げ、呪縛解放士を生業とする」

「……そうなの?」

「ああ」

裕福で楽しい生活の私とは圧倒的に違う。
陰ではつらい思いをしている人が大多数。

知らない世界だ。ロンナの語る世界が、小説の物語のようで。


[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!