変わっていない(オーストリア/誕生日記念)
「なんかさ〜思えば長いよね、私達の付き合い!」
撫子はいきなりそう言って、私の方を見てきた。
「それは、どういう意味ですか?」
私がそう言うと撫子は「だってさ、」と続ける。
「私達が初めてあったのって、人間でいうと3才くらいの頃でしょ?あの頃はバッシュとローデと、3人で楽しかったなー!」
「…私の前で彼の名を出さないで下さい。」
明らかに怪訝そうな顔をしたであろう私を、気にしない様子で撫子は続けた。
「いろいろあったよね…、いいことも、悪いことも…。」
それに私が「そうですね。」と同意すれば、撫子はいきなり立ち上がって、どこかに隠していたのであろう花束を差し出して来る。
その両手いっぱいの花束を、撫子は満面の笑みで私に託した。
「だからね、ローデ、ハッピーバースデー!」
「……………あの、撫子、文脈が全く掴めないのですが…。」
どうやれば思い出話から私の誕生日につながるのだろう。
そう思って、その花束を見ればそれは、エーデルワイスの花束だった。
ああ、そういう事ですか。
「ふふふ、あのねローデ、エーデルワイスの花言葉はね…。」
「大切な思い出、でしょう?」
撫子は私がそう言うと、驚いたような表情になった。
「なんだ…ローデ、知ってたの?つまんなーい!」
「当たり前です。自分の国花の花言葉くらい知らないでどうします?」
「ちえー、びっくりさせようと思ったのにさー…。」
撫子はそう言うと、私に向き直った。
「…じゃあさ、ローデ。もうだいたい何言いたいのかはわかってると思うけど……聞いて?」
「ええ、どうぞ。」
「ローデ、あのね………」
私にとってはいいことも悪いことも、全部全部、大切な思い出の1つなの。
バッシュとの思い出だって、ローデとの思い出だって、忘れた事なんかないよ。
バッシュは、もう離れていっちゃったけど…
ローデとは、もっといっぱい思い出作りたい。
そう一気に言った撫子はどことなく震えていた。
下を見ていて、表情もよくわからない。
撫子はあの人とけっこう仲はよかったから、思い出しているのだろう。
彼と別れたあの日を。
あの日、なかなか泣き止んでくれない撫子をどうする事も出来ずにただオロオロしていた記憶がある。
今はお互いに大人になったし、もうそういう事はないと思うが。
撫子はそれでも震える声で続けた。
「ローデ、私…1人はやだよ…。お願い、ローデはまだ…私といて…。」
その震える頭に手を置けば、私にもその振動は微弱ながらも伝わってくる。
「当たり前です、お馬鹿さん。」
そう言えば、心なしか撫子の震えは幾分かおさまってきた気がした。
私は撫子の頭を安心できるように優しく撫でて「来年も、その次も、何年経っても一緒にいましょうね?」と言えば、撫子は小さく頷いた。
…………そう言えば、昔撫子とこんなやりとりをした気がする。
私のこの言葉で泣き止んだ撫子と、それに喜んだ私。
ああ、大人になったなんて偉そうな事を言っても、私達は
***変わっていない***
あの頃の思い出とあの頃の約束
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