11 * チアキは久々に絶望というものを感じた。 幸せな時間があった分、心はいつもより増して深い傷を負っているんだな、と渇いた笑いすらでてこなかった。 浮かぶ3文字の言葉。 それは『諦める』ということ。 確かにそれが一番楽な方法だとは思える。 傷付くのはもう散々なのだ。 だけれど、今まで諦めが出来たのは欲しかったものがなかったからで、今自分の空いた両手に心から欲しいと望むものが存在している。 その存在だけで諦めるのは勿体ないと強い意志を持つ事ができる自分がいる。 そう、私は変わったんだ。 アオイさんに出会って 私は変わったんだ。 (だから私は諦めない) 勿論理由はそれだけではなく、諦めた時の自分の姿を見て楽しむというジールの期待にこたえるのは真っ平ごめんだと思ったので、チアキはより強く自分の事を覚えていなくても諦めないと決心したのだった。 『アオイはね、記憶を失っていくんだ。心とともに喰われているんだよ?異例な力を手に入れた対価として』 ジールの言葉でチアキは強大な力を使った代わりに自分との記憶が消えたんだとアオイの異変を解明することが出来た。 でもそれがなんだって言うのだろう。 出会いはきっかけ。 きっかけは神様からのプレゼント。 でもそんなものなしだって私はアオイさんと繋がりを持つ事が出来るんだ。 だからまだ大丈夫。 自分にもできることがある。 チアキは臆病な自分に強く言い聞かせた。 「あの、アオイ…さん」 「ああ、さっきのアンタか。何?まだ懲りていないってか?へー…かなり鬱陶しいなお前」 「…」 大丈夫。 まだ、がんばれる。 自分の服の裾を掴んで、震える足で体を支えながら、チアキは口を開く。 「私の名前、チアキ……です」 「あ?何?」 「名前、チアキって言う、の…」 「だから何?そんなの知ったところで俺に何の得があるんだ?なぁ、なんとか言えよ」 「ご…めんな…さい…」 「そんなあほらしい理由で来たのか。っは、よっぽど暇人なんだなチビは。」 「……」 黙るチアキの様子を見て、飽きたのか舌打ちしながらまたどこかに去ろうとする。 [*前][次#] [戻る] |