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自分の格好が泥だらけだという事にも気付かずチアキは足元をくまなく探す。
風は相変わらず冷たいが、先程に比べればだいぶましに思えたのだ。
隣で一緒に探してくれている少年がふと手を止めチアキの顔を覗き込むように見つめた。
「……お姉さん」
「……はい」
「……本当にこの辺に落としたの?大切な石をさ」
「多分ここかこの施設の中です。きっとあるはずです」
チアキは少年の問いに答えつつも手を止めずに草を掻き分け地面を注意深く探した。
「……お姉さんにとってそれはそんなにも大切なものなんだね」
少年もチアキに見習ってまた探索を再開させる。
でもチアキは暫くしてから口を開いた。
「本当は私のではないのです」
「……え、じゃあ誰の?」
「私の大切な人の大切なものなんです。だから探しているんです」
「その無くした本人は探していないのに?」
「私が無理いって引き受けただけだから…いいんですこれで。」
小石と言えども気にかけるという事はアオイになにかしら心に訴えるものに違いはないのだ。
まだ心は確かにある。
チアキはなんとなくそれを感じ取り微笑んだ。
自分がこうして心を少年に開けているのはアオイさんのお陰なんだ。と、
そして
「お姉さんはその人が好きなの?」
「好き……?」
「お姉さん変だよ。こんな雑用みたいなことして、それでも笑っていられるんだもん。普通そこは怒るんだよ?」
「怒る?」
少年に言われてチアキは気付いた。
確かに、自分が怒ってもいい訳なのだ。
「……うー…ん……」
「まさか、怒るって選択肢すら考えても見なかったって感じ!?」
少年はチアキのきょとんとした様子に目を瞬かせた。
まるで奇妙なものをみているかのように、唖然とした様子で。
「僕にはお姉さんの事理解出来ないよ〜…」
そして最後にはがっくりと肩を落とし溜め息までついてみせた。
「ん〜…でも、さ。お姉さんの気持ちには応援したくなっちゃうな。理解は出来ないのに頑張っている姿を見たら応援せざるを得ないっていうか…。とにかくお姉さんには諦めないで頑張って欲しいと思う!」
「応援…」
「うん僕はお姉さんの気持ち大切だと思う。なんだか心が寛大すぎて僕にはまだまだ出来ないけど、間違いなくお姉さんの存在はいい方向での変化を呼ぶ感じがするんだ!」
すると少年はチアキの泥だらけで細い手に自分の顔を当てた。
「…………だから諦めないでよ」
「………はい」
小さくでもはっきりとチアキは答えた。
それは久々に顔が心から緩んだ瞬間でもあった。
「ありがとう、応援してくれて…」
星が暗闇のカーテンを彩る様に光る寒い夜の下、チアキは少年と小さな約束をした。
単純だけれどそれは大変難しいこと。
諦めない。
という続けることの難題さはこれからも自分を苦しめるとはなんとなくチアキは予想できた。
それでも少年が言ってくれたように自分の存在がアオイさんの何かをいい方向に変えて行くことが出来るなら。
「私、頑張ります」
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