15
それはどこか小さな町の宿の一室で、
ぼろぼろの服をまとって、自分をまっすぐみている少女の姿が現れた。
汚らしくなっているのもあり、元の色が褪せているのもあって原形をなんとなくしかつかめないのだが、あの時自分は違和感を感じた覚えがあった。
不思議なつくりの服に、驚きながらもとりあえず、服を着替えろと自分がテーブルに置いてある新しい服を指差した。
そしてその少女は戸惑いながらも首を縦に頷かせた。
適当に時間を潰し、再び宿屋の部屋の扉を開けたら、天使がまいおりたのかと本気で驚いてしまった。
一体誰が想像出来ただろう。
みすぼらしくて、小汚なくて、何よりも伸びきった不揃いの髪のせいで表情が見え隠れしていて笑わない少女が。
自分の選んだ服をひらめかせて微笑みながら振り返った。
そして言葉を失った。
黒髪に琥珀のつぶらな瞳。
雪のように白い肌と、子供じみた笑顔。
自分の中の世界が天地逆転したにのようにも感じた。
……今もその服装を身を纏っているのは彼女……チアキだった。
「……っち、」
「アオイ――っ!」
チアキのお腹にめがけてみしりと蹴りをくらわせると、アオイはこれ以上何もいわずに、目的地へと足を進めた。
蹴られたチアキは痛みももちろんあるが、それよりも吐き気を感じお腹を抱える。
ただでさえ、何も食べていなかったのに、これ以上吐き出したって余計に体が持たないと抑え込むが、なかなか気持ち悪さが抜けなかった。
「……」
ジールは全くその光景に楽しさを感じなかった。
いつもなら「あーあー。やられちゃってかわいそー」とか心にもない言葉を吐くくせに、今日は何を口に出せばいいのかジールは黙っていた。
チアキに少なからず同情を持ちながらも、アオイを非難すれば命は危うい。
かといって、昨日のようにチアキを攻撃することはもっと後味が悪くなるんだとわかっていたからなおさら二人のやり取りに口をはさめなかった。
「げほっ、げほっ…っぅ…」
チアキはふらつきながら何とか腕の力で体を起こした。
土まみれになった自分の頬をぬぐうと、散らばってしまった荷物をかきあつめてまたアオイの後を追おうとする。
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