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「……はぁ…」


本当に今日はついていない。

朝目覚めてからあまり雲行きが悪いとは感じていたけれど。


まさかこんなについていないとは思わなかった。


相変わらず首筋にはヒリヒリとした痛みが残っている。


ジールは恐る恐る自分の手を首に当てた。



「……ん、」



しばらくすると重たい扉の軋む音が聞こえて、チアキが戻ってきたんだとわかった。


部屋の中が暗いので、なんとなくしかわからないが。



でも呆然としていたら、ジールは突然首元にひんやり冷たいものが伝わった。


「っーー!!」

「だめ、じっとして…」



どうやらチアキは布を濡らして首元にあててくれているようだ。


「は?何してるの…?」

「……」

「媚売ろうとしてるの?俺にそんなことしたって無駄だよ?」

「別に、そんなんじゃない…。私は私のしたいようにしてるだけ…」

「………」


ジールは黙った。


チアキという存在を信じられなかった。

あれだけ散々な仕打ちされておいて、下心がないと言うのだろうか。

そんな筈がない。

絶対に裏があるはずなんだ。



見返りを求めないなんて…

ただの戯言にすぎないんだ。




でも、わからない。

チアキの様子を見ても彼女は自分を面倒みるように、他人である筈のの俺を気遣ってくれる。

親身に接してくれている。


本当に見返りを求めているようには感じなかった。



「……嘘だ…そんなの嘘つきだ」


――――でもやはり認めてしまう事は無理だった。



ジールはどういう言葉を発していいのか、すっかり調子を狂わされて、いつもの減らず口も黙ることしかできなかった。


そしてチアキはそんなことも知らず赤みを消すためにもう一度布をたたみなおして、ジールの首元に充てようとする……が。


「は…放せっ!!!」


ジールは思いっきりチアキを突き飛ばしてしまった。


もともと、ひ弱で、傷だらけの体の少女にすぎないのに、力の加減を忘れて思いっきり振りはらってしまった。

そのことを一瞬後悔しながらも、悟られまいと怒鳴って部屋を出て行ってしまった。


「本当にあんたってなんなんだよ!なれなれしいんだよ、一人じゃ身すら守れないくせに!!!」


チアキのあの部屋が暗くてよかったと、ジールは安心した。


でないと、自分の調子のぬけた表情を全部チアキに見られてしまうんじゃないかとおもったから。


そうしたら、全部自分が壊れてしまいそうで。











とりあえず、ジールは罪悪感を残しつつもチアキの部屋から急いで離れた。




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あきゅろす。
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