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こっちだよ。


こっちこっち。





迷わないでおいで。



こっちだから。


目が闇に慣れたのか徐々に分別ができるようになってきた。

小さな声が向こうへ続いている。街灯のように一定間隔に待機しているのか、距離を縮める度に何かが耳元で囁く。


「…!」


ガサガサガサッッ



足場が脆く、チアキはバランスを崩して2転3転と転げ落ちてしまった。

ただ、最後に仰向けに倒れた瞬間、茂りすぎた植物たちがクッションになったので、思った以上のダメージはなかった。


時間がないよ


会いたいんでしょ


こっちだよ


こっちこっち。



不格好なまま倒れ込んでいる自分の手を見えない何かが引き上げてくれた。


「っと、」


また走りだす。



根拠はないが、確信が何故か強く胸の中にある。



誘う声を辿っていけば、絶対に―――


顔を上げた。

急に境界線を越したように、木々と草花たちがざわめいている。

直感だが、そう感じた。
何かを拒絶しているみたいだ。

声も聞こえなくなった。

何か異端な存在がこの森を脅かしているというのか。




「………!」




草をかき分けていくと向こうの茂みに何か黒い影が見えた。


強引にもチアキは木々や棘のある草花を越えて、そっとそれに近づいた。



「……これは…」



大きな獣が自分の翼を使って身をかくまうように、丸くうずくまっていた。

矢が突き刺さっているのをみると襲撃を受けたに間違いなかったが、チアキはそれよりも驚いたことがある。



「………アオイさん…」


異様な姿だ。

彼を知るものにでさえもその正体を見破れないだろう。

漆黒の翼をはやし、僅かながら見える四肢とその体は虎のように猛禽なもはや化け物だった。
体格の差も桁外れに違う。

信じられないが、それが自分の追い求めていた彼なんだと理解した。



気持ち悪い。

独特な匂いが嗅覚を狂わせる。


「っ」


チアキはその場でお腹を抱え込みながら嘔吐してしまった。

胃が揺さぶられたように痛む。

気持ち悪い。


でも。

大きなその翼からは黒い血がどくどくと流れ落ち、周りの草花がそれに影響され黒ずんでいく。

チアキも自分の手のひらを返すとふれた箇所が何かに浸食され、黒くあざが広がった。



「アオイさん…アオイさんっ!死んじゃだめ、死んじゃだめだよっ…!」


チアキは翼に飛び込んだ。

羽根が所々強引にも引きちぎられている箇所があった。

その傷の酷さ。

治るかなんて次元じゃない。生死を問われる深刻な事態だ。


「アオイさんっ…!アオイさんっ」



チアキは自分の手を傷口に当ててこれ以上の流血を塞ごうとするが、収まるはずはなく、黒き血はどんどん広がっていく。





【大切ナモノ…】


「……?」

【一番守リタイモノ、ソレガ大切ナモノ……】



マモラナケレバナラナイ

一番大切ナモノダカラ


【ダガ選べナカッタ。ダガ選バナカッタ。覚悟ガナイカラダ。心ガ弱イカラダ。】



コノ男ハ契約ニ違反シタ。
契約ヲ守レナカッタ。


目的ヲ果タセナイ。




ダカラ敗者ハ
罰ヲ受ケナケレバナラナイ。




「違う、違うよ!」


罰ヲ受ケナケレバナラナイ。


「罰なんかいらないっ、アオイさんは悪くないっ!」

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あきゅろす。
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