13 はじまりは幸せ過ぎる家庭であった。 こんなにも歪んだ生活は誰一人として望んではいなかった。 そのきっかけはほんの細やかなことである。 ――――いや、細やかな事ではない。 彼女を知るものならば誰もが涙を流し、悔やみ、悲しがるであろう本当に皆の心を揺さぶる存在だったのだ。 そんな大切な姉『千鶴』が交通事故に会い、この世から突然御別れを告げたことが円満な家庭が音を立て崩れ落ちる暗黒時代の始まりだった。 『千鶴』は誰よりも綺麗に整った顔立ちで、ほんのり茶色の混ざった艶やかな長い髪で、それが更に見るもの全ての心を奪った程、またとない宝石のような人だった。 両親はそんな彼女を誇りに思っていた。 また外見だけでなく、お人好しで世話焼きで、ちょっとイタズラ好きな一面を持つ彼女の内面的なものにも周りが強く惹かれるものがあった。 そして博識で勉学の面でも抜かりはなかった。 私はそんな美しく色付き咲き誇る華のような姉を持てたことが何よりの自慢でもあった。 完璧すぎる姉を持てたことが何よりの誇りでもあった。 ――――だから彼女の死は決して受け入れられるようなものではなかった。 私は努力をしても姉のようにはなれず、また越すことも出来なかったので、いつしか劣等感を彼女がいなくなった今でさえもも強く感じる事がある。 私が姉になれたらどんなによかっただろうか。 努力すら余計に空回りに気がして私は自分自身の能力の低さに塞ぎ込むようになっていってしまった。 両親は姉に多大なる期待を寄せていたからショックが酷く、家庭は簡単に闇時代を迎えることになった。 母は異常とも呼べる過保護になり、私を家から出さなくなっていた。 そうすれば交通事故なんて合わずに済むと思ったのだろうが、私は人目に触れる機会をめっきり減らし、自ら話すことも苦手になってしまった。 そして父はお酒に溺れるように変わってしまった。 母が私への過剰な振る舞いに嫌気を指し、私に罵声を浴びせる日々も続いた。 『何故お前がここにいるんだ!千鶴じゃなく何でお前がここにいるんだ!!』 父が言う決まり文句だった。 私はその日から徐々に自分の殻に籠るようになった。 後悔と責任と劣等感を抱き、ただ思うことはこの状況を皆で乗り越えることだった。 ―――異世界に来たのはそれから暫くしてからである。 [*前][次#] [戻る] |